前回はAGA(男性型脱毛症)診断で最も大切なのはAGA以外の脱毛症を除外できることだということをお伝えしました。
そのためにはあらゆる脱毛をきたす疾患の知識を持つ皮膚科専門医での正しい診断が大切なのです。
さて、今回は、AGAと正しく診断された場合、どんな治療法が世界的に認められているのか、そして日本ではどんな治療が推奨されているのかについて、医学的なガイドラインをもとに詳しくお話しします。
「ネットで見つけた○○療法は効くの?」「海外では△△が流行っているらしいけど…」
そんな疑問をお持ちの方も多いと思います。
でも、まずは世界中の専門家が認めている「確実な治療法」を知ることから始めてみませんか。
医学における「ガイドライン」とは何か
医療の世界には「ガイドライン」というものがあります。 これは、その分野の専門家たちが世界中の研究結果を集めて分析し、「この治療法は効果がある」「この方法は危険」といった判断をまとめた、いわば治療の教科書のようなものです。 個人の経験談や、一つの研究結果だけでなく、何千人、何万人ものデータをもとに作られているので、信頼性が高いんですね。 今回は、日本、アメリカ、ヨーロッパ、韓国など、世界各国のガイドラインを比較しながら、どの治療法が本当に信頼できるのか見ていきましょう。世界が認める「ビッグ3」治療法
驚くことに、世界中のガイドラインで「強く推奨」されているのは、実はたった3つだけなんです。1. フィナステリド内服(男性のみ)
- 日本:強く推奨
- アメリカ:強く推奨(第一選択薬)
- ヨーロッパ:強く推奨
- 韓国:強く推奨
- オーストラリア:強く推奨
2. デュタステリド内服(男性のみ)
- 日本:強く推奨
- 韓国:強く推奨(2009年に世界初承認)
- アメリカ:推奨(フィナステリド無効例)
- ヨーロッパ:推奨(2020年以降、承認国が増加)
3. ミノキシジル外用
- 日本:強く推奨(男性5%、女性2%)
- アメリカ:強く推奨(男性5%、女性2-5%)
- ヨーロッパ:強く推奨
- カナダ:強く推奨
なぜこの3つだけが世界共通なのか
医学の世界では、治療法が「強く推奨」されるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります:- 大規模な臨床試験で効果が証明されている(数千人規模のデータ)
- 複数の国で同じ結果が再現されている
- 10年以上の長期安全性データがある
- 副作用のリスクが明確で管理可能
その他の治療法の世界的評価
低出力レーザー治療(LLLT)
- 日本:推奨
- アメリカ:推奨(FDAが医療機器として承認)
- ヨーロッパ:一部の国で推奨
- 韓国:推奨
自毛植毛術
- 日本:推奨(男性)、条件付き推奨(女性)
- アメリカ:強く推奨(適切な候補者)
- ヨーロッパ:推奨
- ブラジル:強く推奨
ケトコナゾールシャンプー
- 日本:条件付き推奨
- アメリカ:補助療法として推奨
- ヨーロッパ:一部の国で推奨
- インド:推奨
アデノシン外用
- 日本:条件付き推奨
- アメリカ:エビデンス不十分
- ヨーロッパ:一部で使用
- 韓国:条件付き推奨
世界的に推奨されていない治療法
ミノキシジル内服(飲み薬)
- 日本:行うべきでない
- アメリカ:FDA未承認、推奨なし
- ヨーロッパ:AGA治療薬として未承認
- 韓国:行うべきでない
その他の各種“先端治療”
- PRP(多血小板血漿)療法
- 幹細胞治療
- HARG療法
- 各種サプリメント
まとめ:世界標準の治療から始めよう
世界中のガイドラインを比較してわかったこと:1. 確実に効果がある治療は3つ
- フィナステリド/デュタステリド内服(男性)
- ミノキシジル外用
2. 補助療法として認められているもの
- 低出力レーザー
- 自毛植毛(薬が効かない場合)
- ケトコナゾールシャンプー
3. 世界的に推奨されていないもの
- ミノキシジル内服
- 高額な「最新治療」の多く
4. 基本は世界共通
安全性と効果が長期的に証明された治療法を優先して受ける。 新しい治療は効果が証明されていないことを知ったうえで受けるかどうか決めるという姿勢が大切です。 当院では、日本と世界のガイドラインに基づいた標準治療を提供しています。 まずは世界が認める確実な治療から始めて、効果を見ながら次のステップを考える。これが最も合理的なアプローチです。 次回は多くの患者さんが迷わされることが多い誤情報に騙されないために、AGA治療でのSNSとの上手な付き合い方をお話します。日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明