ニキビ(5) 女性難治ニキビのスピロノラクトン治療|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科 ニキビ(5) 女性難治ニキビのスピロノラクトン治療|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科

Blog ブログ

ニキビ(5) 女性難治ニキビのスピロノラクトン治療

前回までに、ニキビの基礎知識、外用薬による標準治療、重症例に対するイソトレチノイン、そして低用量ピルについて解説してきました。
今回は、標準治療を適切に行っても改善しない大人の女性のニキビに対するもう一つの選択肢として、スピロノラクトン内服について詳しくお話しします。

前回までのおさらい

ニキビ治療の基本は、アダパレンや過酸化ベンゾイルといった外用薬による「毛穴の詰まり」の改善と維持療法でした。
しかし、大人の女性のニキビの一部には、ホルモンバランスの乱れによって皮脂が過剰に分泌され続けているケースがあります。
前回ご紹介した低用量ピルは、このホルモンバランスを整える治療法の一つですが、体質的にピルが合わない方、ピルだけでは効果が不十分な方もいらっしゃいます。
そのような場合に検討されるのが、今回解説するスピロノラクトン内服です。

スピロノラクトンとは

スピロノラクトンは、本来は高血圧症や心不全、むくみなどの治療に使われる「カリウム保持性利尿薬」です。
1963年に日本で承認された古い薬で、「アルダクトンA」という商品名でも知られています。
この薬には、体内のホルモン受容体に作用し、男性ホルモン(アンドロゲン)の働きを弱める「抗アンドロゲン作用」があります。
この作用を利用して、女性の大人ニキビに使われることがあります。
ただし、高血圧などの治療では保険が適用されますが、ニキビ治療を目的として使用する場合は保険適用外となり、自費診療となります。

スピロノラクトンの作用機序

ニキビができる原因の一つとして、男性ホルモンの働きによる過剰な皮脂分泌があります。
スピロノラクトンは、男性ホルモンが皮脂腺に作用するのを抑制することで、皮脂の分泌を減少させます。
その結果、「皮脂が多すぎて毛穴が詰まりやすい」という悪循環を断ち、ニキビができにくい肌質へと導きます。
効果が現れるまでには数週間から数か月かかり、即効性はありませんが、継続することで徐々に皮脂のベタつきが改善し、あご周りやフェイスラインの深いニキビが出にくくなります。

世界と日本のガイドラインでの位置づけ

米国(AAD 2024年ガイドライン)

米国皮膚科学会の最新ガイドラインでは、スピロノラクトンは「条件付き推奨(Conditional recommendation)」とされています。
これは「多くの患者に適用できるが、個々の状況に応じて判断が必要」という意味です。
特に、抗生物質の長期使用を避けるための代替手段として重要視されています。
また、健康な若年者では頻繁なカリウムモニタリングは不要とされていますが、高齢者や基礎疾患がある場合、他の薬を併用している場合は注意が必要とされています。

欧州(EDF S3ガイドライン)

欧州のガイドラインでも、ホルモン療法の選択肢として記載されていますが、各国の承認状況や保険制度に応じた運用が推奨されています。

日本(日本皮膚科学会 2023年ガイドライン)

日本では、スピロノラクトンは「推奨しない(推奨度C2)」とされています。
これは「危険な薬」という意味ではなく、「ニキビ治療薬として厚生労働省の承認を得ておらず、保険適用外であるため、標準的な治療としては推奨できない」という制度上の理由によるものです。
実際の臨床現場では、標準治療を十分に行っても改善しない一部の患者さんに対して、欧米のエビデンスを参考にしながら、自費診療として慎重に使用されています。

どのような人に適応となるか

スピロノラクトンの使用を検討するのは、以下のような条件が揃った場合です。

適応を検討する症例

  • • 標準治療(外用レチノイド、過酸化ベンゾイル、短期間の内服抗菌薬)を数か月以上適切に継続しても改善が見られない
  • • あご、フェイスライン、首筋など、男性ホルモンの影響を受けやすい部位に集中してニキビができる
  • • 生理の1〜2週間前に必ず悪化し、生理後に落ち着くという明確な周期性がある
  • • 皮脂分泌が多く、テカリが強い
  • • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など、男性ホルモンが高い状態が疑われる

適応とならない症例

  • • 軽症から中等症のニキビ(標準治療で十分改善が期待できる)
  • • 標準治療を十分に試していない
  • • 妊娠中、妊娠の可能性がある、授乳中
  • • 腎機能障害、高カリウム血症
  • • カリウムを増やす他の薬(ACE阻害薬、ARBなど)を服用中

副作用と禁忌

スピロノラクトンには、以下のような副作用や注意点があります。

主な副作用

高カリウム血症
カリウムを体に貯める作用があるため、腎機能が悪い方や、カリウムを増やす他の薬を飲んでいる方では使用できません。
定期的に血液検査で電解質や腎機能をチェックする必要があります。
月経不順・不正出血・乳房の張り
ホルモンバランスに作用するため、月経周期が乱れたり、乳房の張り・痛みが出ることがあります。
このため、低用量ピルとの併用が推奨されます。
眠気・立ちくらみ・だるさ
利尿作用や血圧への影響で、ふらつき・だるさを感じる方もいます。
妊娠中は絶対禁忌
これが最も重要な注意点です。
スピロノラクトンは、男の赤ちゃんの性器の発育に影響する可能性があると考えられており、妊娠中・妊娠の可能性がある方には投与できません。
内服中は確実な避妊が必須です。妊娠を希望される場合は、事前に必ず相談が必要です。

併用注意の薬剤

カリウムを増やす他の薬(ACE阻害薬、ARB、カリウム製剤など)との併用は避ける必要があります。
また、第4世代ピル(ヤーズ、ヤーズフレックス、ジェミーナなど)に含まれるドロスピレノンも、スピロノラクトンと同様にカリウムを貯める作用があるため、併用には注意が必要です。
どうしても併用する場合は、より頻繁な血液検査でのモニタリングが必須となります。

実際の使い方

スピロノラクトンは、少量から開始し、症状や副作用の有無に合わせて調整します。
効果が現れるまでには、通常3か月程度かかります。最初の1〜2か月は変化を感じにくいことがありますが、焦らず継続することが大切です。
症状が改善した後も、自己判断で急に中止すると再発しやすいため、医師の指示に従って徐々に減量していく必要があります。

低用量ピルとの併用について

スピロノラクトン単独では月経不順が起こりやすいため、低用量ピルとの併用が推奨されます。
また、確実な避妊という観点からも、ピルとの併用は理想的です。
ただし、ピルの選択には注意が必要です。
第4世代ピル(ヤーズ、ヤーズフレックス、ジェミーナなど)に含まれるドロスピレノンは、スピロノラクトンと同様にカリウムを体に貯める作用があります。
そのため、スピロノラクトンと第4世代ピルを併用すると、高カリウム血症のリスクが高まる可能性があります。
併用する場合には、第3世代ピル(マーベロン、ファボワールなど)との組み合わせが相対的に安全とされています。
もし第4世代ピルとの併用を検討する場合は、より慎重な血液検査でのモニタリングが必要となります。
前回ご紹介した低用量ピル単独で効果が不十分だった方でも、スピロノラクトンを追加することで改善が期待できます。

当院での対応

当院では、日本の標準治療(保険診療)を適切に行っても改善が得られず、かつ明らかに男性ホルモンが関連していると考えられる症例に限り、スピロノラクトンによる治療を行っています。
その際、避妊の確実性も含めて、低用量ピル(特に第3世代ピル)の内服の併用を推奨し、婦人科への受診をお勧めしています。

まとめ

スピロノラクトンは、標準治療で改善しない大人の女性のニキビに対する有効な選択肢です。
しかし、決して最初から使う薬ではなく、また自己判断で個人輸入して使用すべき薬でもありません。

覚えておいていただきたいこと

  • • ニキビ治療の基本は、まず標準治療(外用薬中心)を適切に行うことです
  • • スピロノラクトンは、標準治療を十分に試しても改善しない症例に限定される選択肢です
  • • 最も重要なのは妊娠への影響であり、確実な避妊管理が絶対条件です
  • • 高カリウム血症のリスクがあり、第4世代ピルとの併用には注意が必要です
  • • その他にも、月経不順、腎機能への影響など、注意すべき副作用があります
  • • 低用量ピル(特に第3世代)との併用が推奨されます
ニキビ治療は、まず適切な標準治療から始めることが基本です。
それでも改善が得られない場合に、専門医と十分に相談したうえで、スピロノラクトンを含む次のステップを検討することが望ましいと考えます。
「生理のたびに同じところに深いニキビができる」「標準的な治療をしっかり使ってもコントロールがつかない」「皮脂のベタつきが強く、あご周りのニキビが繰り返す」
そのような場合は、一度専門医に「ホルモンの関与がありそうかどうか」「スピロノラクトンを検討する価値があるか」を相談してみてください。
(日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部皮膚科アレルギー科 服部浩明)