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こんな症状で困っていませんか?
「リップクリームを塗っても、全然良くならない」
「むしろ、塗れば塗るほど悪化している気がする」
「唇だけじゃなく、口の周りまで赤くなってきた」
前回は、唇の正しいケア方法についてお話ししました。
しかし、適切なケアを2週間続けても改善しない場合、それは単なる乾燥ではなく、何らかの「口唇炎」という病気が隠れている可能性があります。
今回は、冬に特に多い4つの口唇炎について、見分け方と対処法を解説します。
「乾燥」と「口唇炎」の決定的な違い
多くの方は、唇が荒れると「乾燥しているだけ」と思いがちです。
しかし、皮膚科医の立場から見ると、保湿剤で改善するのは「乾燥」、保湿剤では治らないのが「口唇炎」です。
乾燥は、バリア機能が低下している状態ですが、口唇炎は皮膚に「炎症」という異常反応が起きている病気です。
【重要ポイント】
炎症が起きている状態では、いくら保湿をしても、その根本原因を取り除かない限り治りません。 むしろ、保湿剤の成分そのものが刺激となり、かえって悪化させてしまうこともあるのです。
よくある口唇炎①:舌なめ皮膚炎
前回も少しお話ししましたが、これは冬に最も多い口唇炎の一つです。
どんな症状?
唇の周りにぐるっと、「どろぼうヒゲ」のような赤い輪ができるのが特徴です。
唇だけでなく、口の周り全体が赤くただれ、時にはジュクジュクと浸出液が出ることもあります。
子供に多い病気ですが、大人でも唇を舐める癖がある方は要注意です。
なぜこうなる?悪循環のメカニズム
乾燥する → なめる → 唾液の消化酵素でバリアが壊れる → 過乾燥になる → さらに舐める
この悪循環が続くと、唇だけでなく口周りの皮膚まで炎症を起こしてしまいます。
見分けるポイント
- 唇の周り全体が赤い(唇だけではない)
- 境界がはっきりしている
- 舐める癖がある
- 保湿剤を塗っても改善しない
セルフケアの限界
いったんこの状態になると、保湿剤だけで治すことはできません。
舐める癖をやめることは簡単ではなく、特に子供の場合は無意識にやってしまうため、親が常に見張るわけにもいきません。
こうなると皮膚科での適切な治療が必要です。
よくある口唇炎②:ヘルペス性口唇炎(口唇ヘルペス)
「熱の華(はな)」と呼ばれることもある、非常によくある病気です。
どんな症状?
最初は唇がピリピリ・チクチクする違和感から始まります。
数時間から1日以内に、小さな水ぶくれ(水疱)が複数集まって現れます。
水ぶくれは破れて、かさぶたになり、約1〜2週間で自然に治ります。
原因はウイルス感染
単純ヘルペスウイルス(HSV)というウイルスが原因です。
一度感染すると、ウイルスは神経節に潜伏して一生自分から出ていきません。
体調が悪い時や疲れた時、強いストレスがかかった時に再発します。
冬は、寒さや乾燥、年末年始の疲れなどで免疫力が低下しやすいため、ヘルペスが再発しやすい季節なのです。
見分けるポイント
- 最初にピリピリ・チクチクする(これが重要!)
- 小さな水ぶくれが小範囲に集まっている
- 繰り返し同じ場所にできる
- 疲れている時や風邪の後に出やすい
皮膚科専門医への受診が大切な理由
口唇ヘルペスは口唇炎と見分けがとても難しい病気です。 ポイントは「小範囲に集まってできる」ということ。
赤い唇の端っこにぐるりと小水疱ができる場合はたいてい違います。
ヘルペスの塗り薬は薬局でも購入できますが、ヘルペスの薬を塗っても治らないと受診される口唇炎の患者さんがたくさんいます。
また病院で処方される内服薬は塗り薬よりはるかに早くきれいに治すことができます。
見分けるポイントを参考にしてヘルペスを疑う症状が出たら早めに皮膚科専門医を受診しましょう。
人にうつる可能性も
ヘルペスウイルスは感染力が強く、水ぶくれの中にはウイルスがたくさん含まれています。 タオルの共用、キスや頬ずりなどで、家族にうつる可能性があります。
特に、赤ちゃんや免疫力の低い方への感染は避けなければなりません。
症状がある間は、タオルを分ける、患部を触らない、触った後は手洗いを徹底するなど、感染対策も大切です。
よくある口唇炎③:口角炎
口の端(口角)が切れて、痛くて口を開けられない。 そんな経験はありませんか?
どんな症状?
口角が赤くなり、裂けて(亀裂)、かさぶたができます。
話す・食べる・笑うといった動作で口を開けるたびに、亀裂が開いて痛みます。 治りかけてもすぐにまた裂けるため、なかなか治らないのが特徴です。
原因は一つじゃない
口角炎の原因は複数あり、人によって異なります。
❶ カンジダ菌(真菌・カビ)の感染
口角は、唾液が溜まりやすく、湿った環境になりがちです。 そこにカンジダという真菌(カビの一種)が繁殖すると、炎症を起こします。 義歯を使っている高齢者、糖尿病の方、免疫抑制剤を使用している方に多く見られます。
最近増えているのが市販のステロイド外用剤を間違って使ってカンジダ性口角炎を発症している方です。 ステロイドの塗り薬は強さによって厳密に使い分ける必要があります。 特に口周囲はトラブルが頻発する場所なので安易なステロイド外用は避けましょう。
❷ ビタミンB群や鉄分の不足
ビタミンB2、B6、鉄分などが不足すると、皮膚や粘膜の修復がうまくいかず、口角炎が起こりやすくなります。 無理なダイエット、偏った食事、胃腸の病気で栄養吸収が悪い方に見られます。
見分けるポイント
- 口の端(片方または両方)が切れている
- 開口時に痛む
- 繰り返す
- 治りかけてもすぐ裂ける
セルフケアできる?
軽度で、明らかな原因(乾燥、栄養不足など)がわかっている場合は、保湿とビタミン補給で改善することもあります。 しかし切れてしまうと保湿ではかえって逆効果です。
またカンジダ感染が原因の場合は、抗真菌薬という特別な薬が必要です。 栄養欠乏が原因の場合は、単にビタミン剤を飲むだけでなく、なぜ欠乏しているのか(食事の問題か、吸収の問題か)を調べることも大切です。
1週間以上治らない、繰り返す場合は、皮膚科を受診しましょう。
よくある口唇炎④:アレルギー性接触皮膚炎(かぶれ)
「リップクリームを変えたら、唇が腫れた」 そんな経験はありませんか?
実は、唇を守るはずのリップクリームや口紅が、アレルギーの原因になることがあるのです。
どんな症状?
リップクリームや口紅を使った後、数時間から数日以内に、唇が赤く腫れ、かゆみやヒリヒリ感が出ます。 ひどい場合は、水ぶくれができたり、皮がむけたりします。
意外な原因物質
以下の成分がアレルギーの原因になることがあります:
❶ 香料
良い香りのリップクリームや口紅には、様々な香料が使われています。 天然成分(ペパーミント、ラベンダーなど)も、アレルギーの原因になることがあります。
❷ 防腐剤
長持ちさせるために配合されている防腐剤(パラベンなど)にアレルギー反応を起こす方もいます。
❸ 紫外線吸収剤
UVカット機能付きのリップクリームに含まれる紫外線吸収剤が、刺激やアレルギーの原因になることがあります。
❹ プロポリス
「天然成分で安心」と思われがちなプロポリス(ミツバチが作る物質)ですが、実はアレルギーを起こしやすい成分の一つです。 リップクリームや歯磨き粉に配合されていることがあります。
❺ 歯磨き粉の成分
唇そのものではなく、歯磨き粉に含まれるラウリル硫酸ナトリウム(発泡剤)やフッ素が、口周りの皮膚炎の原因になることもあります。
見分けるポイント
- 特定の製品を使った後に症状が出る
- 使用をやめると改善する
- かゆみが強い
- 唇だけでなく、口周りも赤くなることがある
すべてを疑うのが大切
「最近変えたものはないからかぶれではない」と思っていませんか?
「何年も使っていた製品でも、突然アレルギーになることはある?」という質問をよく受けますが、答えはイエスです。 アレルギーは、同じ物質に繰り返し接触することで、ある日突然発症することがあります(感作)。 生まれたときに花粉症の人はいませんが、花粉に接触しているうちに花粉症になっていきますよね。 「今まで大丈夫だったから」と安心せず、すべてのものにかぶれの可能性があると考えるようにしましょう。
こんな症状はすぐに受診を
早めに皮膚科を受診すべきサイン:
- 2週間以上、適切なケアを続けても改善しない
- 唇が腫れたり痛みがある
- 水ぶくれや膿が出ている
- 唇だけでなく、口周り全体に広がっている
- 繰り返し同じ症状が出る
- リップクリームを塗ると悪化する
これらの症状は、単なる乾燥ではなく、治療が必要な病気のサインです。
「いつもの荒れ」と油断しないで
「冬はいつも唇が荒れるから」と、毎年同じように対処している方も多いと思います。
しかし、今年の症状は本当に「いつもと同じ」でしょうか?
- 今年は特にひどい
- 今までと症状が少し違う
- いつもより治りが遅い
こうした「いつもと違う」サインに気づいたら、それは受診のタイミングかもしれません。
まとめ
保湿剤で2週間ケアしても改善しない場合は、「口唇炎」という病気の可能性があります。
よくある4つの口唇炎:
- 舌なめ皮膚炎:口周り全体が赤くなる(舐める癖が原因)
- ヘルペス性口唇炎:水ぶくれができる(ウイルス感染が原因)
- 口角炎:口の端が切れる(カビ・栄養不足などが原因)
- アレルギー性接触皮膚炎:特定の製品で悪化する(アレルギーが原因)
それぞれ原因が異なるため、治療法も異なります。
また、薬局でステロイドなどの強い薬が買えるようになったことで新しく増えてきた病気もあります。
セルフケアの限界を見極め、適切なタイミングで皮膚科を受診することが、早期回復への近道です。
「たかが唇の荒れ」と軽視せず、症状が続く場合は専門医に相談しましょう。
(日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明)