脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)
目次
脂漏性皮膚炎とは
脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)は、皮脂の分泌が多い部位に生じる慢性の炎症性皮膚疾患です。頭皮や顔(眉間、鼻のわき、耳の後ろ)、前胸部などに、赤みやかゆみ、黄色みを帯びたフケのような鱗屑(りんせつ)が現れます。
「毎日シャンプーしているのにフケが治らない」「頭皮がべたついてかゆい」といった症状で受診される方が多い病気ですが、清潔・不潔とは関係なく発症します。慢性の経過をたどり再発しやすい一方で、適切な治療によって十分にコントロールできる疾患です。
軽いフケのみで赤みやかゆみを伴わない状態(医学的には頭部粃糠疹(ひこうしん)と呼びます)は国民の約半数が経験するともいわれ、いわば体質の範囲です。これに対し、赤みやかゆみを伴うものは脂漏性皮膚炎という「病気」として治療の対象になります。
原因とメカニズム
発症には、皮脂の過剰分泌と、皮膚常在菌であるマラセチア(Malassezia属の真菌)が関わっています。マラセチアは誰の皮膚にも存在し、普段は無害ですが、皮脂が増えると増殖し、皮脂を分解する際に生じる遊離脂肪酸が皮膚を刺激して炎症を引き起こします。
頭皮は顔の2倍以上の皮脂を分泌する部位であり、脂漏性皮膚炎が最も起こりやすい場所のひとつです。いったん炎症が生じると皮膚のバリア機能が低下し、さらに刺激を受けやすくなる悪循環に陥るため、市販のフケ用シャンプーだけでは改善しないことが少なくありません。
皮脂の量や常在菌のバランスは、体質・ホルモン・ストレス・食事などさまざまな要因で変動するもので、洗い方や清潔さの問題ではありません。
なりやすい人・悪化しやすい要因
脂漏性皮膚炎には、発症や悪化に関わるいくつかの要因があります。
性別・年齢
男性ホルモンが皮脂腺を活性化させるため、男性にやや多くみられます。思春期以降に発症しやすく、30〜40代で受診される方が目立ちます。女性でも発症し、特に産後や更年期などホルモンバランスが変動する時期は注意が必要です。
生活習慣
ストレス、睡眠不足、偏った食事は皮脂分泌を増やす方向に働きます。仕事が忙しくなった時期や試験期間中などに悪化して受診される方が多くみられます。
季節
冬は空気の乾燥でバリア機能が低下し炎症が悪化しやすく、夏は皮脂分泌が増えるため悪化するタイプの方もいます。季節の変わり目に症状が出やすい疾患です。
思春期
思春期は性ホルモンの分泌が急激に増え、皮脂腺が活性化する時期です。ニキビと同じ仕組みで頭皮の皮脂も増えるため、この年代でも発症することがあります。本人が「不潔だと思われたくない」と相談できずに抱え込んでいることもあり、周囲が気にかけてあげることが大切です。
症状と現れる部位
脂漏性皮膚炎の症状は、皮脂腺が多い以下の部位に左右対称に現れます。
- 頭皮 ─ 黄色っぽくベタついたフケ、赤み、かゆみ
- 顔 ─ 眉毛、眉間、鼻のわき、ほうれい線まわりの赤みとカサつき
- 耳 ─ 耳の後ろや耳のなかの赤み、かゆみ、剥離
- 前胸部・背中の上部 ─ 赤い斑点や鱗屑
頭皮では、フケが黄色みを帯びてベタベタしていたり、大きな塊になって張り付いていたりします。フケだけでなく赤みを伴うのが、いわゆる「フケ症」との大きな違いです。
頭皮のにおいについて
「夕方になると頭がにおう」という訴えで受診される方も少なくありません。これはマラセチアが皮脂を分解する際に生じる遊離脂肪酸が酸化することや、皮膚にいる細菌が汗・皮脂と混ざり合うことで生じるもので、洗い方の問題ではありません。脂漏性皮膚炎を治療してマラセチアの過剰増殖を抑えれば、においの改善も期待できます。
抜け毛との関係
脂漏性皮膚炎自体が直接髪を抜く病気ではありませんが、頭皮の炎症が毛根周辺に及ぶと、髪の成長サイクルが乱れて抜け毛が増えることがあります。
重要なのは、脂漏性皮膚炎による抜け毛は炎症が治まれば再び生えてくるという点です。男性ホルモンの影響で毛根そのものが萎縮していくAGA(男性型脱毛症)とは、原因も経過も異なります。ただし、炎症を長年放置すると毛根がダメージを受け、回復が難しくなる可能性があるため、早めの対処が望まれます。
なお、AGAと脂漏性皮膚炎は同じ方に併発することもあります。AGA治療を希望して受診された方に脂漏性皮膚炎が見つかるケースは少なくなく、その場合はまず炎症を治療しないとAGA治療の効果も十分に発揮されません。AGA治療薬(フィナステリドやデュタステリド)はマラセチアによる炎症には効果がないため、原因の見極めが大切です。
似ている病気との見分け
頭皮や顔にフケ・赤み・かゆみを起こす病気は脂漏性皮膚炎だけではありません。自己判断が難しく、誤った対処で悪化させてしまうことも少なくありません。
乾燥によるフケ(乾皮症)
冬場に多く、白く細かいパラパラとしたフケが特徴です。頭皮全体がカサつき、赤みは伴いません。「白くてパラパラ、赤みなし」なら乾燥、「黄色くてベタベタ、赤みあり」なら脂漏性皮膚炎を疑う、というのが大まかな目安です。乾燥と脂漏性皮膚炎が同時に起こることもあります。
頭部の乾癬(かんせん)
脂漏性皮膚炎と外見がよく似ていますが、フケは銀白色で厚みがあり、剥がすと点状に出血するという特徴があります。治療法が異なるため、正確な診断が必要です。
接触皮膚炎(かぶれ)
特定のシャンプーや整髪料、毛染めなどによる炎症です。
アトピー性皮膚炎の頭皮症状
アトピー素因のある方では、頭皮にも症状が及ぶことがあります。
頭部白癬(しらくも)
頭にできる水虫で、フケや脱毛を伴います。
皮膚科専門医は、症状の分布や鱗屑の性状、ダーモスコピー(拡大鏡)所見などからこれらを見分けます。市販品で対処を続けて時間や費用を無駄にする前に、一度きちんと診断を受けることをおすすめします。
治療
脂漏性皮膚炎は慢性疾患であり、糖尿病や高血圧と同じように「完治」を目指すよりも「症状が出にくい状態を維持する」ことを目標とします。治療には、炎症が出ているときの攻めのケアと、症状がないときの守りのケア(再発予防)の両方が必要です。
抗真菌薬の外用(ケトコナゾールなど)
原因菌であるマラセチアに直接作用する塗り薬で、治療の中心となります。頭皮にはローション剤が使いやすく、長期間使用しても副作用が少ないのが大きな利点です。症状が治まった後も週1〜2回塗り続ける維持療法に用いることで、再発をかなり抑えることができます。
当院では頭部全体に薬を行きわたらせるため、シャンプーに混ぜて使用していただく方法もご案内しています。
ステロイド外用
赤みやかゆみが強い急性期には、炎症を速やかに鎮めるためにステロイドの塗り薬を短期間併用します。直接塗り込むローションタイプと、入浴前に塗って洗い流すジェルタイプがあります。
ステロイドに不安をお持ちの方もおられますが、「炎症が強い時期に短期間使ってしっかり鎮め、落ち着いたら抗真菌薬に切り替える」という使い方であれば副作用の心配はほとんどありません。ステロイドはあくまで「セルフケアが効く状態に皮膚を戻す薬」であり、その後の維持療法とセットで用いるものです。
「ステロイドを塗っているときだけ良くなって、やめるとまた悪化する」と感じる方は、抗真菌薬への切り替えがうまくいっていない可能性があります。
内服薬
かゆみが強い場合は抗ヒスタミン薬を併用することがあります。
治療の流れ
ステップ1:炎症を鎮める(攻めのケア)
ステロイド外用で炎症を速やかに抑え、同時に抗真菌薬でマラセチアの増殖を抑制します。かゆみが強ければ抗ヒスタミン薬の内服を併用します。
ステップ2:維持療法に切り替える
ステロイドは短期間で中止し、抗真菌薬の外用を中心とした維持療法に移行します。
ステップ3:再発を防ぐ(守りのケア)
症状が治まった後も、薬用シャンプーの定期的な使用と生活習慣の見直しで再発を抑えます。抗真菌薬を週1〜2回使い続ける維持療法も効果的です。
日常のセルフケア
シャンプーの仕方 ─ ポイントは「放置時間」
セルフケアで最も大切なのは、日々のシャンプーの仕方です。「しっかり洗う」ことよりも「正しいやり方で洗う」ことが重要です。
- 1. ぬるま湯(38℃前後)で1〜2分間予洗い:熱すぎるお湯は頭皮を乾燥させ、バリア機能を壊します。
- 2. 薬用シャンプーで洗う:処方された抗真菌薬入りのシャンプー、または市販品の場合はミコナゾールやピロクトンオラミンなどの抗真菌成分を含むシャンプーを使います。
- 3. 泡立てた状態で3〜5分間放置する:ここが最も大切なポイントです。すぐに洗い流すと有効成分が頭皮に浸透する時間が足りません。米国皮膚科学会(AAD)のガイドラインでも推奨されている方法で、これを守るだけで効果がかなり変わります。
- 4. 丁寧にすすぐ:生え際や耳の後ろは洗浄成分が残りやすい部位です。残留した成分自体が刺激になることがあります。
- 5. 早めにドライヤーで乾かす:濡れたまま放置すると、湿った環境を好むマラセチアの増殖を助けてしまいます。
「洗いすぎ」も「洗わなさすぎ」も逆効果
1日に何度もシャンプーしたり、洗浄力の強い製品でゴシゴシ洗ったりすると、皮脂が落ちすぎて頭皮が乾燥し、かえって皮脂が大量に分泌されます。
一方、「刺激を与えたくないから」「お湯だけで洗うのがよいと聞いたから」と洗浄剤を使わない方もおられますが、洗わなければ皮脂が溜まりマラセチアのエサが増えます。インターネット上の極端な情報を鵜呑みにせず、1日1回、ぬるま湯と薬用シャンプーで適度に洗うことを基本にして、季節や自分の体質によって洗う頻度を調整してください。
食事と生活習慣
皮脂の代謝に関わるビタミンB2(レバー、納豆、卵)、B6(マグロ、鶏ささみ、バナナ)、ビオチン(卵黄、アーモンド)は意識して摂りたい栄養素です。約4,400人を対象とした疫学研究(ロッテルダム研究)では、果物の摂取量が多い人で脂漏性皮膚炎のリスクが低いという報告もあります。
一方、脂質や糖質の多い食事、アルコールの多飲は皮脂分泌を増やす方向に働きます。ただし食事だけで治る病気ではなく、あくまで補助的な位置づけです。「○○を食べれば治る」といった情報には注意してください。
生活面では十分な睡眠とストレス管理が大切です。精神的ストレスは皮脂分泌を促し、再燃のトリガーになることが知られています。
アルコール成分を含むヘアトニックやスカルプローションは頭皮の水分を奪い炎症を悪化させることがあるため、製品を選ぶ際は「アルコールフリー」「エタノールフリー」と表記されたものを選ぶのが無難です。
こんなときは皮膚科へ
以下に当てはまる方は、一度皮膚科専門医にご相談ください。
- 市販のフケ用シャンプーを2〜3週間使っても改善しない
- かゆみが強く、つい頭を掻いてしまう
- フケが黄色っぽく、ベタベタしている
- 頭皮だけでなく、眉毛・鼻のわき・耳の後ろにも赤みやカサつきがある
- フケと一緒に抜け毛が増えてきた
- 頭皮のにおいが気になる
- 育育毛剤やAGA治療薬を使っているのに効果が出ない
「フケくらいで」と受診をためらう方もおられますが、脂漏性皮膚炎は放置するほど治りにくくなる病気です。炎症がこじれる前に原因をはっきりさせ、適切な治療を始めることが結果的に近道になります。
正しい治療とセルフケアを組み合わせれば、フケ・かゆみ・におい・抜け毛といった悩みから解放されることは十分に可能です。長くおひとりで悩んでこられた方こそ、一度ご相談いただければと思います。
監修:日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明