1. 代表的な口唇炎と見分け方(画像解説)
通常の「口角口唇炎」
いわゆる「唇の荒れ」です。
特に乾燥する時期に多く見られます。
唇全体がかさかさし、赤い唇の縁に小さい水疱が多発します。
唇表面の水分が足りなくなって、表面のバリア機能が弱って荒れます。
通常ではしみないような食べ物や口紅・リップクリームなどでもかぶれることがあります。
最近唇の赤い部分の周囲に小さな水疱がたくさんできる患者さんが増えており、ヘルペスと間違えることがよくあるようです。
市販のリップクリームにかぶれておきていることも多いようですので、純度の高い精製ワセリンをリップクリーム代わりに使いましょう。
カンジダ性口角炎
見た目は普通の口角炎とほとんど変わりません。
口の中が乾燥しやすい高齢者に多いですが、若い人でも普通の口角炎と間違えてステロイドの入った薬を連用しているとひどくなる事があります。
専門医で菌がいるかどうかの顕微鏡検査を受けることができます。
若年者で何度も発症する場合にはエイズなどの免疫抑制を起こす病気が隠れていることもありえます。
高齢者では消化管カンジダ症などに発展することもあるので、早めに専門医を受診したほうが良いでしょう。
唇のヘルペス(ヘルペス性口唇炎)
「熱の華(はな)」と呼ばれることもある、非常によくある病気です。
単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染で起こります。
最初は唇がピリピリ・チクチクする違和感から始まり、数時間から1日以内に小さな水ぶくれ(水疱)が小範囲に集まって現れるのが特徴です。
一度感染するとウイルスは神経節に潜伏し、体調が悪い時や疲れた時、寒さや乾燥などで免疫力が低下した時に再発します。
舌なめ皮膚炎
唇の周りにぐるっと、「どろぼうヒゲ」のような赤い輪ができるのが特徴です。
唇が乾燥するとつい口の周りをなめてしまいますが、皮膚が荒れている時は唾液中の消化酵素が刺激になって皮膚炎をおこします。
「乾燥する → なめる → 唾液の酵素でバリアが壊れる → 過乾燥になる → さらに舐める」という悪循環に陥ります。
子供に多い疾患ですが、大人でも口の周りをなめる癖があるとなります。
いったんこうなると保湿剤だけで治すことはできず、皮膚科での適切な治療が必要です。
口角炎
口の端(口角)が赤くなり、裂けて(亀裂)、かさぶたができます。
話す・食べる・笑うといった動作で口を開けるたびに、亀裂が開いて痛みます。
原因は複数あり、カンジダ菌(真菌・カビ)の感染や、ビタミンB群・鉄分の不足などが挙げられます。
切れてしまうと保湿ではかえって逆効果になることもあり、原因に応じた抗真菌薬や栄養補給が必要になります。
アレルギー性接触皮膚炎(かぶれ)
リップクリームや口紅を使った後、数時間から数日以内に、唇が赤く腫れ、かゆみやヒリヒリ感が出ます。
香料、防腐剤、紫外線吸収剤、プロポリス、歯磨き粉の成分などがアレルギーの原因になることがあります。
「何年も使っていた製品でも、ある日突然アレルギーになることはある」ため、すべてのものにかぶれの可能性があると考えるようにしましょう。
扁平苔癬
唇だけでなく、口の中や体、爪などにも変化が出ることがあります。
薬害によるもの、金属アレルギーによるもの、ウイルス肝炎と関係したもの、特に原因無く発症するものなど様々なタイプがあります。
慢性で治りにくい病気です。
萎縮性口唇炎
高齢者で多い状態で、長い年月の間に唇の粘膜が弱くなってしまった状態です。
熱いものや辛いものを食べるとピリピリと痛みがあります。
特効的な治療法はないので、保護剤を塗ったり、ステロイド外用剤を塗ったりしながら保存的に治療します。
口囲皮膚炎
口の周り・鼻の脇・目の周りに、赤いブツブツ(丘疹)や小さな膿(膿疱)、カサカサ(鱗屑)ができる病気です。
ニキビと見た目がとても似ていますが、見分けるポイントは「コメド(白ニキビ・黒ニキビ)がない」ことです。
ステロイド外用剤の長期使用や強いステロイドの使用と強い関連があり、治療にはステロイドの中止とテトラサイクリン系抗生物質の内服などを根気よく続ける必要があります。
2. なぜ唇はこんなに荒れやすいのか?(メカニズム)
唇が他の皮膚と比べて圧倒的に荒れやすいのには、明確な理由があります。
顔の他の部分とは全く異なる、特殊な構造をしているのです。
❶ 皮脂腺がない→自然な保湿ができない
私たちの顔や体の皮膚には、「皮脂腺」という小さな器官があり、そこから分泌される皮脂が天然のクリームとなって、皮膚の表面を保護しています。
ところが、唇にはこの皮脂腺が全くありません。
つまり、自分で乾燥から守る仕組みがもともとないのです。
常に外から保湿剤を補ってあげないと、すぐにカサカサになってしまいます。
❷ 角層が極端に薄い=バリア機能が弱い
皮膚の一番外側には「角層」という防御壁があります。
顔の他の部分では、この角層が40〜50層ほど重なっているのに対し、唇ではわずか8〜12層しかありません。
唇のバリア機能は顔の他の部分の4分の1程度しかなく、外からの刺激が直接届きやすく、内側の水分も蒸発しやすくなります。
❸ 常に外部刺激にさらされる
唇は、常に外気にさらされています。
紫外線、風、乾燥した空気、食べ物の刺激、歯磨き粉の成分など、一日中さまざまな刺激を受け続けています。
しかも、話す・食べる・笑うといった動きで常に伸びたり縮んだりするため、引っ張られてヒビができたり、割れるリスクも高くなります。
さらに、乾燥する時期は気温が低く湿度が下がり、暖房の使用で室内も極度に乾燥するため、屋外でも屋内でも唇にとって過酷な環境となります。
3. 正しいリップケアとNG習慣
良かれと思ってやっている習慣が、実は唇を傷めていることがあります。
以下のNG習慣に心当たりがある方は、今日から意識して止めましょう。
やってはいけないNG習慣
❌ 唇を舐める
舐めれば舐めるほど悪化します。
唾液中の消化酵素が皮膚を攻撃し、舐めた後の「過乾燥」が起こります。
乾いたと感じたら、舐めるのではなく、リップクリームを塗りましょう。
❌ 皮を剥く
めくれた皮が気になって無理に剥くと、健康な皮膚まで一緒に剥がれ、出血や傷の原因になります。
自然に剥がれるのを待つか、清潔なハサミで優しく切り取りましょう。
❌ ゴシゴシこする
リップクリームをぬるときやタオルで拭くとき、強くこすることは摩擦ダメージとなります。
常に「優しく」を心がけましょう。
❌ 刺激の強い口紅を毎日使う
長時間落ちないマットな口紅や強力なクレンジングは、唇の油分・水分を奪います。
荒れているときは控えましょう。
正しいリップケアの基本:症状に合わせた選び方
リップクリームは成分によって得意分野が全く異なります。
唇の状態に合わせて使い分けることが大切です。
❶ ひび割れ・痛みがある→「ワセリン」
すでにひび割れや傷があり、リップクリームがしみる場合は、純粋な「ワセリン」が最適です。
ワセリンは余計な成分が一切入っておらず、油膜を作って唇を保護(コーティング)してくれます。
刺激がないので、どんな状態でも安心して使えます。
ただし、ワセリン自体には水分を与える力はないので、「保護」が主な目的です。
❷ 乾燥が気になる→「セラミド」「ヒアルロン酸」配合
傷はないけれど乾燥が気になる場合は、「セラミド」や「ヒアルロン酸」など、水分を保持する成分が配合されたものがおすすめです。
セラミドは、皮膚のバリア機能を構成する重要な成分で、角層の細胞間を満たして水分を逃がさない働きがあります。
ヒアルロン酸は、自分の重さの何百倍もの水分を抱え込む保湿力があります。
これらの成分は、唇に水分を与えながら、潤いを保ってくれます。
❸ 避けたい刺激成分―「メントール」「香料」
リップクリームの中には、「スースーして気持ちいい」メントールや、良い香りの香料が含まれているものがあります。
しかし、これらの成分は刺激となることがあり、特に唇が荒れているときは避けた方が無難です。
「清涼感」は一時的に気持ちいいかもしれませんが、唇の修復にはプラスにならないどころか、炎症を悪化させることもあります。
荒れているときは、できるだけシンプルな成分のものを選びましょう。
❹ 日中は紫外線対策も忘れずに
唇も顔の他の部分と同じように、紫外線のダメージを受けます。
むしろ、バリア機能が弱い分、紫外線による影響を受けやすいのです。
日中外出する際は、「UVカット機能」が付いたリップクリームを選びましょう。
SPF15〜30程度あれば、日常生活には十分です。
食後のケアと塗るタイミング
食事の後の唇には「食べ物汚れ」がついています。
可能ならば、食後はお水で唇を洗い流してからリップクリームを塗るようにしましょう。
就寝前:保湿成分がじっくり浸透するチャンスです。
多めに塗りましょう。
外出前:紫外線や風から守るために必ず塗りましょう。
こまめな塗り直し:乾燥する前に、1日に10回くらいは塗ってみましょう。
塗り方のコツ
唇の縦ジワに沿って、縦方向に優しく塗りましょう。
力を入れず、なでるように薄く伸ばします。
口角(唇の端)も忘れずに丁寧に塗りましょう。
4. 治らない唇荒れ、隠れた原因(栄養不足)
適切な治療を受けてもなかなか治らない場合、カロリーは足りていても、特定のビタミンやミネラルが不足していることが原因になることがあります。
唇はターンオーバーが約2週間と非常に速いため、栄養不足の影響を真っ先に受ける場所なのです。
ビタミンB群の不足
皮膚や粘膜の再生に欠かせない栄養素です。
ビタミンB2不足では、口角炎・舌炎・脂漏性皮膚炎が揃うことがあり、舌が赤紫色になります。
ビタミンB6・B12も粘膜の修復に必要です。
サプリメントだけで特定のビタミンを大量に摂っても効果は限定的です。
レバー、卵、納豆、牛乳、かつお、まぐろなど、食事でバランスよくこまめに摂取することが基本です。
鉄分の不足
鉄分は皮膚の免疫機能を保つためにも重要で、不足するとカンジダ(カビ)に感染しやすくなります。
健康診断で「貧血なし」と言われても、体内の鉄の貯蔵量を示す「フェリチン」が低下していると口角炎や口唇炎が起こりやすくなります。
特に月経のある若い女性に鉄欠乏が頻発しています。
吸収率の高い「ヘム鉄」(レバー、赤身肉、かつお、まぐろ)をビタミンCと一緒に積極的に摂りましょう。
軽度の場合は市販のサプリメントや食事の改善で効果が期待できます。
亜鉛の不足
細胞分裂が盛んな皮膚には特に必要です。
不足すると口内炎ができやすくなったり、粘膜に特徴的な皮膚炎ができることもあります。
牡蠣、レバー、牛肉、卵、チーズなどに多く含まれます。
動物性タンパク質を適度に取り入れることで吸収率を高めることができます。
栄養欠乏の診断は皮膚科専門医へ
栄養欠乏による口唇炎は、見た目だけでは他の口唇炎と見分けがつきません。
難治性の場合や特徴的な症状がある場合は、血液検査を行い、なぜ栄養が不足しているのかを突き止めることが専門医の重要な役割です。
5. ステロイド外用剤の注意と受診の目安
ステロイド外用剤について知っておくべきこと
ステロイドは正しく使えば優れた薬ですが、使い方を誤ると副作用が出ます。
顔や首、口周りは皮膚が薄く、ステロイドの吸収率が体の約13倍も高い場所です。
そのため、原則として「弱い」または「中程度」のステロイドしか使いません。
最近は薬局でもステロイド外用剤が買えますが、麻酔薬などが混ざっていてかぶれを起こすこともあり、薬剤師は医師ではないため、顔の症状については皮膚科専門医の診察を受けることが大切です。
強いステロイドを長期間顔に使うと、皮膚が薄くなる、口囲皮膚炎になるなどの副作用が出ることがあります。
こんな症状はすぐに受診を
以下のような症状がある場合は、早めに皮膚科を受診してください。
- 2週間以上ケアや市販薬を使っても改善しない
- 唇が腫れたり、痛み、水ぶくれや膿、出血がある
- 口の周りにブツブツができている、赤みが広がっている
- ステロイドを塗ると良くなるが、中止すると悪化する
- 繰り返し同じ場所に症状が出る
- 貧血や疲れやすさ、食欲不振がある
- 舌の色が赤紫色になっている
これらは、単なる乾燥ではなく、専門的な診断と治療が必要なサインです。
「乾燥するといつも唇が荒れるから」と油断せず、いつもより治りが遅いなど、「いつもと違う」サインに気づいたら受診のタイミングです。
「たかが唇の荒れ」と軽視せず、治らない症状が続く場合は専門医に相談してください。
適切な診断と治療で、必ず改善への道が開けます。
正しい知識を持って、健康な唇を保ちましょう。
(日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明)