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アナフィラキシーショックの基礎知識

アナフィラキシーの基本知識

「エビを食べた後に全身にじんましんが出て、息が苦しくなった」

「蜂に刺された直後に目の前が暗くなって、立っていられなくなった」

こうした経験をされた方、あるいはお子さんに食物アレルギーがあって「もし重い症状が出たらどうしよう」と不安を感じている方は少なくないと思います。

当院でもアレルギーの検査や相談で来院される方から、「アナフィラキシーって、どういう状態のことですか?」と質問されることがよくあります。

今回は、アナフィラキシーとはどんな反応なのか、何が原因で起きるのか、そしてなぜ「知っておくこと」が大切なのかについてお話しします。

アナフィラキシーは「全身で起きるアレルギー」

全身で起こる反応のイメージ

アレルギー反応というと、肌がかゆくなる、鼻水が出る、といった「体の一部」の症状を思い浮かべる方が多いと思います。

アナフィラキシーは、それとはまったく違います。

皮膚、呼吸器、消化器、循環器といった複数の臓器に、短時間で一気に症状が広がる重篤なアレルギー反応です。通常は数分から数時間以内に急速に進行し、適切な対応が遅れると命に関わることもあります。

たとえば、じんましんが出ているだけなら皮膚のアレルギー反応ですが、それに加えて「息がゼーゼーする」「血圧が下がってぐったりする」「激しく吐く」といった症状が同時に起きたら、それはアナフィラキシーの可能性が高い状態です。

「体の複数の場所に、短時間で重い症状が出る」── これがアナフィラキシーの本質です

どんな症状が出るの?

アナフィラキシーの代表的な症状

アナフィラキシーの症状は、体のさまざまな場所に現れます。すべてが同時に出るとは限りませんが、複数の症状が重なったときに疑う必要があります。

まず最も多いのが皮膚の症状です。全身のじんましん、赤み、強いかゆみ、唇やまぶたの腫れなどが急に現れます。アナフィラキシーの約9割で皮膚症状が見られるとされており、多くの場合、最初に気づくサインになります。

次に出やすいのが呼吸の症状です。のどがイガイガする、声がかすれる、ゼーゼーと音がする、息が吸いにくい── こうした症状はのどや気管支がむくんで狭くなっているサインです。

消化器の症状としては、激しい腹痛や繰り返す嘔吐、下痢が挙げられます。食物が原因の場合、これらの症状が目立つことがあります。

そして最も注意が必要なのが循環器の症状── つまり血圧の低下です。顔色が真っ青になる、意識がぼんやりする、ぐったりして反応が鈍くなる、といった状態はショックに近い段階です。

「じんましんだけなら様子を見よう」と思いがちですが、アナフィラキシーの怖いところは、皮膚の症状が出た数分後に呼吸や血圧の症状が一気に進むことがあるという点です。

間違えやすい状態がある

アナフィラキシーと似た症状を起こす別の状態があることも知っておく必要があります。

たとえば、注射や採血のときに気分が悪くなって倒れる「血管迷走神経反射」は、顔色が青白くなり冷や汗が出る点ではアナフィラキシーと似ています。ただし、横になると楽になること、じんましんや呼吸困難が見られないことで区別できます。

また、動悸や息苦しさを感じるパニック発作も混同されやすいのですが、じんましんや血圧低下は起こりません。

実際の現場では判断が難しいことも多いので、迷ったときは「アナフィラキシーかもしれない」という前提で対応することが大切です。

原因で最も多いのは「食べもの」── でも子どもと大人では中身が違う

原因食物の違い比較

アナフィラキシーの原因はさまざまですが、全体の約7割を食物が占めています。

ただし、「食物アレルギー」と一口に言っても、子どもと大人では原因となる食べものも、起き方も大きく異なります。ここは意外と知られていないポイントです。

子どもに多い原因食物 ─ そして「木の実」の急増

乳幼児期に多いのは鶏卵、牛乳、小麦です。これらは成長とともにアレルギーを卒業できることが多く、小学校入学までに8〜9割の子どもが食べられるようになるとされています。

一方で、注目すべき変化が起きています。近年、クルミやカシューナッツなどの木の実類によるアナフィラキシーが急増しているのです。最近の調査では、ショック症状を起こした原因食物としてクルミが鶏卵・牛乳に次いで第3位に入りました。

木の実類のアレルギーには厄介な特徴があります。ほんのわずかな量でも重い反応を引き起こしやすいこと、および鶏卵や牛乳と違って成長しても治りにくい傾向があることです。

クルミやカシューナッツは、お菓子やパンの材料として幅広い食品に使われています。食品の原材料表示を確認する習慣は、お子さんのアレルギーを管理するうえでとても大切です。2025年4月からはクルミの表示が義務化されたことも覚えておいてください。

大人の食物アナフィラキシー ─ 原因も起き方も子どもとは別物

「食物アレルギーは子どもの病気」と思われがちですが、大人でも食物によるアナフィラキシーは起こります。しかもその中身は、子どもとはかなり違います。

大人で多い原因食物は、甲殻類(エビ・カニ)、小麦、果物・野菜です。子どもに多い鶏卵や牛乳はほとんど上がってきません。

甲殻類のアレルギーは小学生以降に増え始め、大人になっても治りにくいという特徴があります。エビやカニは日本の食卓に欠かせない食材ですが、それだけに「まさか自分が」と気づきにくく、当院でも「急にエビで具合が悪くなった」と受診される大人の方がいらっしゃいます。

さらに、大人の食物アナフィラキシーには「条件が重ならないと起きない」という特殊なタイプが多いのが特徴です。その代表が次にお話しする食物依存性運動誘発アナフィラキシーです。

「食べただけ」では起きない? ─ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー

「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」── 長い名前ですが、仕組みはシンプルです。

特定の食べ物を食べただけでは何も起きない。運動だけでも何も起きない。ところが「食べた後に運動する」という組み合わせが揃ったときに、突然アナフィラキシーが起きるのです。

原因食物として最も多いのは小麦で、エビ・カニなどの甲殻類がそれに続きます。

たとえば、こんなケースがあります。朝食にパンを食べ、子どもを保育園に送った後、通勤途中の歩道橋を登っているところで突然意識を失った── これは実際に報告されている典型的な例です。パンを食べただけでは何ともないし、普段の通勤で倒れることもない。でも「小麦+軽い運動」という条件が揃うと、重い反応が起きてしまうのです。

しかも厄介なことに、毎回必ず起きるわけではありません。体調や疲労、睡眠不足、解熱鎮痛薬の服用、飲酒、月経前の状態など、さまざまな要因が重なることで発症の引き金が引かれやすくなります。再現性が低いために、原因に気づくまでに時間がかかることも少なくありません。

子どもでは給食後の昼休みや体育の授業中に起きることがあり、中学生の約6,000人に1人の頻度で見られるとされています。初めて発症するピークは10〜20歳代で、活動量の多い年代に起きやすい傾向があります。

「いつも食べている食べ物で、いつもやっている運動で、なぜ突然?」── この「なぜ?」がこのタイプの怖さであり、知っておくことの大切さです。

花粉症から広がる食物アレルギーもある

もうひとつ、大人の食物アレルギーで知っておいていただきたいのが、花粉症との関係です。

花粉症がある方が、モモやリンゴ、サクランボなどの果物を食べたときに口の中がかゆくなったり、のどがイガイガしたりすることがあります。これは花粉のアレルギー物質と果物のタンパク質の構造が似ているために起きる交差反応で、「口腔アレルギー症候群」と呼ばれています。

多くの場合は口の中の症状だけで済みますが、まれに全身に症状が広がりアナフィラキシーに至ることもあります。春の花粉症がひどい方で、果物を食べた後に口の中に違和感がある場合は、アレルギー検査を受けておくと安心です。当院でも花粉のアレルギー検査と合わせて調べることができます。

食べ物以外の原因 ─ 蜂と薬も知っておこう

蜂や薬品によるアナフィラキシー

食物以外では、蜂に刺されることが重要な原因です。特にスズメバチやアシナガバチによるもので、屋外での作業やレジャー中に起きるケースが多く報告されています。日本ではハチ刺傷によるアナフィラキシーで毎年10名から20名前後の方が亡くなっています。

医薬品も見逃せない原因です。抗菌薬、解熱鎮痛薬、造影剤などが挙げられます。これまで何度も問題なく使えていた薬でも、あるとき突然アナフィラキシーを起こすことがあります。「前に大丈夫だったから今回も大丈夫」とは限らない── これはアレルギーの怖いところです。

近年の統計では、医薬品を原因とするアナフィラキシーの死亡例がハチ刺傷を上回るようになってきました。病院で薬を使う場面だけでなく、市販の解熱鎮痛薬でも起き得ることは覚えておいてください。

子どもの発症 ─ 学校での備えが大切

小学生の約0.6%、中学生の約0.4%にアナフィラキシーの既往があるという調査データがあります。

数字だけ見ると少なく感じるかもしれません。しかし、たとえば400人規模の小学校なら2〜3人はアナフィラキシーを経験したことのある児童がいる計算です。

子どもの場合、食物アレルギーが原因となることが圧倒的に多く、しかも給食や遠足、調理実習といった学校生活の場面で起きることがあります。

お子さん自身は「何を食べてはいけないか」を理解していても、加工食品に含まれる微量のアレルゲンや、友達とのおやつの交換など、予測しにくい場面でアレルゲンに触れてしまうことがあります。

だからこそ、保護者だけでなく学校の先生方にも、アナフィラキシーがどんな状態で、いざというときにどう対応するかを知っておいていただくことがとても重要です。

「知っているかどうか」が結果を変える

アナフィラキシーは突然起きます。

しかし、どんな症状に注意すべきか、何が原因になり得るかを知っていれば、「おかしい」と気づくまでの時間が短くなります。その数分の差が、命を左右することがあるのです。

日本では毎年50名から80名前後の方がアナフィラキシーで亡くなっています。アナフィラキシーは決してまれな病気ではなく、食物アレルギーをお持ちの方やそのご家族はもちろん、そうでない方にとっても「知っておくべき知識」です。

次回は、実際にアナフィラキシーが起きたときに「何をすべきか」「何をしてはいけないか」── 命を守るための具体的な対応についてお話しします。

日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明