
前回のブログに引続き、今回も大人気の美容施術、「ケアシスS」(エレクトロポレーション)についてお話していきます。
まず、前回のおさらいです。
「角層」は味方?敵?
私達の皮膚の表面にある「角層」はとても頑丈で私達の皮膚の一番外側で異物の侵入を防ぎ、水分を逃さない防御壁の役目を果たす頼りがいがある味方です。
この壁は分子量が約500ダルトンを超える荷物をほぼ通しません。
(「ダルトン」とは分子1個の重さを表す単位です。私達の身の回りのモノを「グラム」で計る代わりに、分子の世界では「ダルトン」を使います。)
肌表面の角層には「重さが約500ダルトンを超える物は通しにくい」という経験則があり、これを500ダルトンの壁と呼びます。
ヒアルロン酸やコラーゲン片のような大きな成分が美容クリームに入っていても、壁の前で止められてしまうのです。
美容面から考えると、角層は美容成分を皮膚の中に通してくれない「敵」になってしまうのですね。
エレクトロポレーションの意味は?
しかし、美容成分には皮膚の中に入ってほしいですよね。そこで役立つのがエレクトロポレーションです。
エレクトロポレーションでは、ごく短い高電圧の刺激を与え、角層の脂質をゆるめて目に見えない水の細いトンネルを作ります。
そして、「皮膚に入れないほど大きな物質」を皮膚の中に通してくれるのです。
トンネルは数秒〜数分で閉じるためバリアはすぐにもとに戻ります。壊れたままにはなりません。
でも、実際に皮膚に「トンネル」ができたかどうかをどうやって確認するのでしょう?
“届いたかどうか”はどう確かめる?
研究では、成分そのものに蛍光のタグを付け、光る様子が皮膚の中に入ったかどうかを特殊な顕微鏡で追跡します。
暗い部屋で蛍光シールが奥に動くと位置がすぐ分かるのと同じ理屈です。
この方法で、タグ付きの大きな分子が角層を超えて表皮の奥まで散らばる様子が確かめられています。
どれだけ大きい荷物が通ったのか
- 約4キロダルトンのペプチド:人工的に蛍光を付けた小さなタンパク質を使った試験で、塗布だけでは届かなかった成分が角層を抜けて表皮深部まで広がりました。
- 約10キロダルトンのデキストラン:トウモロコシなどのでんぷんから作る水溶性の“長い砂糖の糸”。ブタの皮膚を使った研究では、電気パルスを当てると輸送量がおよそ2倍に増えました。
- 40キロダルトン級の高分子:さらに大きなモデル分子でも、顕微鏡で表皮内に分布する様子が確認されています。「500ダルトンの壁」は“完全な絶対防壁”ではないことが示されたわけです。
肌はどう変わったか――人への応用例
ヒアルロン酸など保水力の高い成分を導入した小規模試験では、施術前と比べて角層の水分量が平均3割ほど上がり、ゴムボールを押すように測る弾力の数値も改善しました。
また、ビタミンC誘導体を組み合わせた例では、4週間で肌の明るさスコアが有意に上昇しています。
施術中の痛みは「輪ゴムではじかれた程度」「ピリッとするがすぐ消える」と表現されることが多く、出血や腫れはほぼ報告されていません。
安全性は?
高電圧という言葉に驚く人もいますが、皮膚に流れる時間は非常に短く、奥深くまで電流が通り続けるわけではありません。
それでも心臓にペースメーカーが入っている人や妊娠中の人などは、事前に医師へ必ず相談してください。
まとめ
今日はケアシスS(エレクトロポレーション)を美容施術に使う意味を、実験データなどを参考にして更に詳しく解説しました。
- 500ダルトンの壁は「破れない壁」ではなく「鍵付きの扉」
- エレクトロポレーションは、その扉を数秒だけ開けて大きな成分を通す技術
- ヒアルロン酸やペプチドなど――塗るだけでは届かなかった“重い荷物”も肌の奥へ
- 痛みとダウンタイムは小さく、注射が苦手な人の新しい選択肢になりつつある
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日本皮膚科学会専門医 服部浩明