目次
「フケ用シャンプーを使っているのに良くならない」
「一度治ったと思ったのに、また同じ症状が出てきた」
「結局、何をすれば治るのかがわからない」
当院でもこういう悩みをよくお聞きします。
前回まで、脂漏性皮膚炎の仕組みや、においや抜け毛との関係についてお話ししてきました。
今回は、皮膚科で行う治療と、ご自宅でのセルフケアについて具体的にお話しします。
まず大切なことをひとつ。脂漏性皮膚炎の治療には「炎症を治す段階」と「再発を防ぐ段階」があり、それぞれで必要なケアが異なります。
この二つの段階を理解することが、治療を成功させるポイントです。
脂漏性皮膚炎は「コントロールする」病気
脂漏性皮膚炎は慢性疾患です。一度治療して良くなっても、しばらくするとまた症状が出てくることがあります。
「また出てきた=治療が失敗した」ではありません。
脂漏性皮膚炎は、マラセチアという常在菌と皮脂のバランスが崩れることで起きる病気ですから、そのバランスが再び乱れれば症状が出ることは自然なことです。
糖尿病や高血圧と同じように「完治」を目指すのではなく、「うまくコントロールして、症状が出にくい状態を維持する」という考え方が基本になります。
そのためには、炎症が出たときの治療(攻めのケア)と、症状がないときの予防(守りのケア)の両方が必要です。
皮膚科で行う治療——「攻め」のケア
抗真菌薬の塗り薬(ケトコナゾールなど)
脂漏性皮膚炎の原因であるマラセチアに直接効く塗り薬です。
頭皮にはローション剤が使いやすく、第1回でお話しした「皮脂→マラセチア増殖→炎症」という悪循環の根元を断つ役割を果たします。
長期間使用しても副作用が少ないのが大きなメリットです。
症状が治まった後も週に1〜2回塗り続ける「維持療法」に使うことで、再発をかなり抑えることができます。
当院では頭全体に薬を塗布するためにシャンプーに混ぜて使います。
ステロイドの塗り薬
赤みやかゆみが強い急性期には、炎症を速やかに鎮めるためにステロイドの塗り薬を短期間併用します。
「ステロイドは怖い」と思っている方もいるかもしれません。
もちろん症状がおさまってからも長期間塗り続けると皮膚が薄くなるなどの副作用が出ることがあります。
しかし、炎症が強い時期に短期間使って炎症をしっかり鎮め、落ち着いたら抗真菌薬に切り替える——この使い方であれば、副作用の心配はほとんどありません。
ステロイドの役割は「炎症を鎮めて、セルフケアが効く状態に皮膚を戻すこと」です。
脂漏性皮膚炎でも考え方は同じで、ステロイドはあくまで「スタートラインに戻す薬」であり、その後の維持療法やセルフケアとセットで使うものです。
直接塗り込むローションタイプと入浴前に塗って洗い流すジェルタイプの薬があります。
ビタミン剤の内服
補助的な治療として、皮脂の代謝を整えるビタミンB2、B6、ビオチン(ビタミンH)などを処方することがあります。
これらは食事で十分に摂れていれば必ずしも必要ではありませんが、食生活が偏っている場合や皮脂分泌が著しく多い方には効果が期待できます。
漢方薬
日本ならではの選択肢として、十味敗毒湯(化膿傾向のある初期病変に)、荊芥連翹湯(炎症とかゆみが強い慢性期に)、黄連解毒湯(赤みが強くのぼせを伴う場合に)などを併用することがあります。
塗り薬だけではなかなか改善しない場合や、体質的に再発を繰り返しやすい方に検討します。
シャンプーの仕方——「放置時間」がカギです
脂漏性皮膚炎のセルフケアで最も大切なのは、日々のシャンプーの仕方です。
ポイントは「しっかり洗う」ことではなく、「正しいやり方で洗う」ことにあります。
まず、ぬるま湯(38℃前後)で1〜2分間、髪と頭皮を予洗いします。
熱すぎるお湯は頭皮を乾燥させ、バリア機能を壊してしまいます。
第1回でお話しした「乾燥→反動で皮脂が増える」悪循環のきっかけにもなりますので、温度には気をつけてください。
次に、シャンプーに処方されたケトコナゾールローションを混ぜた自分用の薬用シャンプー(病院に受診できない場合は市販品のミコナゾールやピロクトンオラミンなどの抗真菌成分を含むシャンプー)を使います。
ここで大切なのが泡立てた状態で3〜5分間放置することです。
すぐに洗い流してしまうと、有効成分が頭皮に浸透する時間が足りません。
この「放置時間」を取るだけで効果がかなり変わります。米国皮膚科学会(AAD)のガイドラインでも推奨されている方法です。
すすぎは丁寧に行います。生え際や耳の後ろはシャンプーが残りやすい場所です。
成分が残ると、それ自体が刺激になって炎症を悪化させることがあります。
洗髪後は早めにドライヤーで乾かしましょう。
濡れたまま放置すると、湿った環境を好むマラセチアの増殖を助けてしまいます。
「洗いすぎ」と「洗わなさすぎ」——どちらも逆効果
第1回、第2回で繰り返しお話ししてきましたが、脂漏性皮膚炎は「不潔にしているから」起こる病気ではありません。
だから「もっとしっかり洗えば治る」という考え方は逆効果です。
1日に何度もシャンプーしたり、洗浄力の強いシャンプーでゴシゴシ洗ったりすると、頭皮の皮脂が落ちすぎて乾燥し、それを補おうとかえって皮脂が大量に分泌されます。
第2回でお話しした「洗えば洗うほどにおいが強くなる」悪循環と同じメカニズムです。
一方で、フケやにおいが気になるあまり「刺激を与えたくないから洗わない」という方もときどきおられます。
またSNSやネットで「お湯だけで洗うのが一番」という情報を見て全く洗浄剤を使わない方もおられます。
ネットの情報は「たまたまその人にとっては良かった」という情報です。
勉強や仕事の仕方と同じで「その人に良かったことがみんなに当てはまるわけではない」のです。
基本的には洗わなければ皮脂がどんどん溜まり、マラセチアのエサが増えてしまいます。
色々な方法を試してみるのは良いと思いますが、極端な情報を信じすぎないようにしましょう。
基本は1日1回、ぬるま湯と薬用シャンプーで適度に洗うことです。
多すぎず少なすぎず、頭皮に必要な皮脂を残しつつ余分な皮脂を取り除く——このバランスが大切です。
食事と生活習慣で「炎症を起こしにくい体」をつくる
脂漏性皮膚炎は皮膚の病気ですが、食事や生活習慣も症状に影響します。
皮脂の代謝に関わるビタミンB2(レバー・納豆・卵)、B6(マグロ・鶏ささみ・バナナ)、ビオチン(卵黄・アーモンド)は意識して摂りたい栄養素です。
大規模な疫学研究(ロッテルダム研究、約4,400人を対象)では、果物の摂取量が多い人は脂漏性皮膚炎のリスクが低いという報告があります。
一方で、脂質や糖質の多い食事、アルコールの多飲は皮脂分泌を増やす方向に働くことが指摘されています。
ただし、食事だけで脂漏性皮膚炎が治るわけではありません。あくまで補助的な位置づけです。「○○を食べれば治る」といった情報には注意してください。
生活習慣では、十分な睡眠とストレス管理が大切です。
精神的なストレスは皮脂分泌を促し、脂漏性皮膚炎の再燃のトリガーになることが知られています。
当院でも、仕事が忙しくなった時期や試験勉強が続いた時期に悪化して受診される方が多くいらっしゃいます。
アルコール成分を含む整髪料やヘアトニックは、頭皮の水分を奪い炎症を悪化させることがあるため、できれば避けましょう。
製品を選ぶ際は「アルコールフリー」や「エタノールフリー」と書かれたものを選ぶのが無難です。
思春期のお子さんへの対応
第2回でもお話ししましたが、思春期は皮脂分泌が急激に増える時期であり、脂漏性皮膚炎が起こりやすい年代です。
治療そのものは大人と基本的に同じですが、セルフケアの面では親御さんのサポートが大きな役割を果たします。
たとえば、薬用シャンプーの「3〜5分放置」という使い方は、言われなければ知らない子がほとんどです。
お子さんが普段どんなシャンプーをどう使っているかを一度確認し、正しい洗い方を一緒にやってみてあげてください。
また、この年代は受験や部活動などでストレスや睡眠不足を抱えやすい時期でもあります。食事が偏りがちな子も少なくありません。
フケやにおいが悪化しているようなら、生活リズムや食事内容にも気を配ってあげるとよいでしょう。
繰り返しになりますが、フケやにおいは「洗い方が悪い」のではなく、皮膚の病気です。
お子さんに「ちゃんと洗いなさい」と言う前に、まず皮膚科に連れてきてあげてください。適切な薬用シャンプーと塗り薬で、かなり改善が見込めます。
治療の流れを整理しておきましょう
脂漏性皮膚炎の治療は、以下のようなステップで進めます。
ステップ1:炎症を鎮める(攻めのケア)
赤みやかゆみが強い場合は、ステロイドの塗り薬で炎症を速やかに抑えます。同時に抗真菌薬を使ってマラセチアの過剰増殖を抑制します。かゆみが強ければ抗ヒスタミン薬の内服を併用することもあります。
ステップ2:炎症が治まったら切り替える
ステロイドは短期間で中止し、抗真菌薬の塗り薬を中心にした維持療法に移行します。ステロイドを「塗っているときだけ良くなって、やめるとまた悪化する」と感じる方は、この切り替えのステップがうまくいっていない可能性があります。
ステップ3:再発を防ぐ(守りのケア)
症状が治まった後も、薬用シャンプーを定期的に使い、生活習慣に気を配ることで再発をかなり減らすことができます。抗真菌薬の塗り薬を週1〜2回だけ使い続ける維持療法も効果的です。
「治す」と「防ぐ」はセットです
脂漏性皮膚炎は、正しい治療とセルフケアの組み合わせで十分にコントロールできる病気です。
炎症が出たときは皮膚科で薬を使ってしっかり治す。治まったら、薬用シャンプーの正しい使い方と生活習慣の見直しで再発を防ぐ。
この二つの車輪がそろって初めて、フケやかゆみ、におい、抜け毛の悩みから解放されます。
「市販のシャンプーであれこれ試しているけど良くならない」という方は、まず一度皮膚科で炎症の状態を確認してもらうことをおすすめします。
炎症が起きている状態でセルフケアだけを続けても、効果が出にくいからです。
次回は、赤ちゃんの頭にできる黄色いかさぶた(乳児脂漏性皮膚炎)について、親御さんに向けてお話しします。
日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明