治らない唇荒れ、栄養不足かも?
「何をやっても治らない」
「繰り返す口角炎に悩んでいる」
「口の周りのブツブツが治らない」
前回までに、唇の正しいケア方法と、冬に多い4つの口唇炎についてお話ししました。
しかし、適切な治療を受けてもなかなか治らない場合、その背景に「栄養不足」や「口囲皮膚炎」が隠れていることがあります。
今回(最終回)は、見逃されやすい原因と、その対処法について解説します。
1. 栄養不足でも唇は荒れる
「しっかり食べているのに、なぜ?」と思われるかもしれません。
実は、カロリーは足りていても、特定のビタミンやミネラルが不足すると、唇や口角に症状が現れることがあります。
皮膚は常に新しい細胞に生まれ変わっています。
特に唇は、ターンオーバー(細胞の入れ替わり)が約2週間と非常に速いため、栄養不足の影響を真っ先に受ける場所なのです。
ビタミンB群の不足
ビタミンB群は、皮膚や粘膜の再生に欠かせない栄養素です。
- ビタミンB2(リボフラビン)
口角炎・舌炎・脂漏性皮膚炎の3つが揃うと、ビタミンB2不足を疑います。
舌が赤紫色になり、口角が切れて治らない状態が特徴です。 - ビタミンB6・B12
粘膜の修復に必要なビタミンで、不足すると口角炎や舌炎を起こします。
ビタミンB群が不足しやすい人
- 偏った食事(炭水化物中心)
- アルコールの多飲
- 胃腸の病気がある方
サプリメントだけでは解決しない理由
ビタミンB群のサプリメントを飲んでいるのに症状が改善しないという方がいます。
実は、ビタミンB群だけを摂取しても、体はうまく利用できません。
ビタミンB群が体内で働くためには、タンパク質やアミノ酸、食物繊維など、他の栄養素と一緒に摂る必要があります。
たとえば、ビタミンB6は単独では吸収されにくく、タンパク質の代謝と密接に関係しています。
ビタミンB12は、葉酸やビタミンB6と協力して働きます。
つまり、サプリメントで特定のビタミンだけを大量に摂っても、バランスの取れた食事をしていなければ、効果は限定的なのです。
食事でバランスよく摂ることが基本
ビタミンB群は水溶性のため、体に貯めておくことができません。
毎日の食事でこまめに摂取する必要があります。
ビタミンB2:レバー、卵、納豆、牛乳
ビタミンB6:かつお、まぐろ、バナナ
ビタミンB12:レバー、あさり、さんま
これらの食品を食べることで、ビタミンB群だけでなく、タンパク質やアミノ酸、鉄分なども同時に摂取できます。
鉄分の不足
鉄分は、赤血球を作るだけでなく、皮膚の免疫機能を保つためにも重要です。
鉄が不足すると、免疫力が低下してカンジダ(カビ)に感染しやすくなります。
「貧血はないのに」という落とし穴
健康診断で「貧血なし」と言われても安心できません。
貧血の検査(ヘモグロビン値)が正常でも、体内の鉄の貯蔵量を示す「フェリチン」が低下していることがあります。
フェリチンが低いと、貧血になる前の段階でも、口角炎や口唇炎が起こりやすくなるのです。
通常の健康診断ではフェリチンは測定しないため、難治性の口角炎がある場合は注意が必要です。
鉄欠乏になりやすい人
- 月経のある女性
- 妊娠・授乳中
- 胃腸の病気がある方
- 極端な菜食主義
鉄分も食事で摂ることが重要
鉄分には「ヘム鉄」(肉・魚)と「非ヘム鉄」(野菜・海藻)があります。
ヘム鉄の方が吸収率が高いため、レバー、赤身肉、かつお、まぐろなどを積極的に摂りましょう。
ビタミンCと一緒に摂ると、鉄の吸収が良くなります。
逆に、お茶やコーヒーに含まれるタンニンは鉄の吸収を妨げるため、食事中は控えめにしましょう。
鉄のサプリメントと処方薬
市販のヘム鉄サプリメントは、鉄の含有量が少なく(1日10mg程度)、吸収率も様々です。
病院で処方される鉄剤は、非ヘム鉄で吸収効率が悪いのですが、1日100〜200mgと高用量なので足りなくなった鉄を急いで補うのには向いています。
ただし、鉄剤の過剰投与は胃腸障害などの副作用を引き起こすことがありますので注意も必要です。
軽度の鉄欠乏の場合には市販のサプリメントや食事のバランスを整えることを基本にすれば、十分改善が期待できます。
若い女性に鉄欠乏が頻発
若年女性ではもともと月経で鉄が失われるのに加えて過度なダイエットなどで鉄が足りなくなっている方がたくさんいます。
鉄が足りなくなると体の機能が落ちるだけでなく、お肌や髪・爪などが荒れたり薄くなったりする原因にもなります。
重度の貧血がある場合には内科への紹介や、婦人科での月経コントロールなども視野に入れて治療が必要になります。
亜鉛の不足
亜鉛は、300種類以上の酵素の働きを助けるミネラルで、細胞分裂が盛んな皮膚には特に必要です。
亜鉛が足りなくなると口内炎ができやすくなったり髪や爪がもろくなったりなど、皮膚にも多くの症状が出ます。
不足が極端になると粘膜(口や目、肛門の周り)に特徴的な皮膚炎ができる「腸性肢端皮膚炎」という病気になることもあります。
亜鉛不足になりやすい人
- 菜食中心の食事
- 無理なダイエット
- 高齢者
- 胃腸の病気がある方
- アルコールの多飲
穀物や豆類に含まれる「フィチン酸」という成分は、亜鉛の吸収を邪魔します。
一方、肉や魚などの動物性タンパク質は、亜鉛の吸収を助けます。
亜鉛も食事で摂ることが大切
亜鉛を多く含む食品:牡蠣、レバー、牛肉、卵、チーズ
菜食中心の方は、特に意識して亜鉛を含む食品を摂る必要があります。
また、動物性タンパク質を適度に取り入れることで、亜鉛の吸収率を高めることができます。
亜鉛サプリメントの注意点
亜鉛のサプリメントもありますが、亜鉛はなかなか体に取り込まれにくい成分で、内服すればすぐに上がるわけではありません。
亜鉛不足が強い場合には病院でも亜鉛製剤を投与しますが、過剰摂取は銅の吸収を妨げるため、定期的な検査が必要です。
大切なのはバランスの取れた食事をしておくことです。また飲酒が多い方は亜鉛吸収が少なくなりやすいのでサプリメントなどを上手に利用しましょう。
栄養欠乏の診断:皮膚科専門医の役割
「保湿しても治らない」「薬を塗っても繰り返す」という場合、すぐに血液検査をするわけではありません。
栄養欠乏による口唇炎は、見た目だけでは他の口唇炎と見分けがつきません。
しかし、難治性の場合や、舌の色の変化、貧血症状、食事の偏りなど、特徴的な症状や背景がある場合は、血液検査を行います。
この見極めが、皮膚科専門医の重要な役割なのです。
血液検査では、ビタミンB群、鉄(フェリチン含む)、亜鉛などの数値を調べます。
また、なぜ栄養が不足しているのか(食事の問題か、吸収の問題か、他に病気は隠れていないか)を突き止めることも大切です。
2. 口の周りのブツブツ:口囲皮膚炎
「ニキビだと思って薬を塗っているのに、全然治らない」
そんな経験はありませんか?
実は、口の周りにできる発疹には、ニキビとは全く違う「口囲皮膚炎」という病気があります。
口囲皮膚炎とは
口の周り・鼻の脇・目の周りに、赤いブツブツ(丘疹)や小さな膿(膿疱)、カサカサ(鱗屑)ができる病気です。
口囲皮膚炎とニキビは見た目がとても似ているため、見分けがとても難しい病気です。
診察室でも「ニキビの薬を塗っても治らない」と受診される口囲皮膚炎の患者さんがたくさんいます。
ニキビとの見分け方
見分けるポイントは「コメド(白ニキビ・黒ニキビ)がない」こと。
ニキビには必ずコメドがありますが、口囲皮膚炎にはありません。
また口の周りを中心にして出現し、額や頬などのニキビの好発部位にはあまり出てきません。
口囲皮膚炎の原因
口囲皮膚炎の正確な原因は不明ですが、多くの要因が関係していると考えられています。
- ステロイド外用剤(最も関連が強い)
ステロイド外用剤の使用と口囲皮膚炎には強い関連があります。
特に顔への長期使用や、強いステロイドの使用が問題になります。
ステロイドは最初は症状を改善させますが、使い続けることで皮膚のバリア機能が低下し、免疫機能が抑制されます。
その結果、常在菌のバランスが崩れ、口囲皮膚炎が発症すると考えられています。
ステロイドを中止すると一時的に悪化することがありますが、これは皮膚が本来の機能を取り戻そうとする過程です。 - その他の多様な要因
- 吸入ステロイド、点鼻ステロイド
- 化粧品、保湿剤、日焼け止め
- ホルモンバランスの変化
- 皮膚常在菌叢の変化
これらの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
口囲皮膚炎の治療
ステロイド外用剤を使っていて口囲皮膚炎と診断されたら、まずステロイドを中止します。
中止直後は一時的に悪化することがありますが、これは避けて通れない過程です。
強いステロイドを使用していた場合は、急に中止すると悪化が強く出ることがあるため、弱いステロイドに切り替えて徐々に減量することもあります。
その上で、以下の治療を行います。
【内服治療】
テトラサイクリン系抗生物質を数週間から数ヶ月服用します。
抗菌作用だけでなく、抗炎症作用もあるため、口囲皮膚炎に効果的です。
【外用治療】
ある種の抗菌剤を使いますが、かぶれることもあり、とてもデリケートな治療を要します。
すぐに効果が出づらい病気ですので皮膚科専門医で根気強く治療を行います。
治療期間
治療には数週間から数ヶ月かかります。
焦らず、根気よく続けることで必ず改善します。
3. ステロイド外用剤について知っておくべきこと
ステロイドは、正しく使えば炎症を速やかに抑える優れた薬です。
しかし、使い方を誤ると様々な副作用が出ることがあります。
ステロイドの強さは5段階
ステロイドは、その強さによって5つのランク(最強・非常に強い・強い・中程度・弱い)に分類されています。
使用する部位や症状によって、細かく使い分ける必要があります。
顔や首、口周りは皮膚が薄く、ステロイドの吸収率が体の他の部分に比べて約13倍も高い場所です。
そのため、顔や首、口周りには、原則として「弱い」または「中程度」のステロイドしか使いません。
体に使う「強い」「非常に強い」ステロイドを顔に使うと、副作用が出やすくなります。
市販のステロイド外用剤の問題点
最近、薬局でステロイド外用剤が買えるようになったことで、誤った使い方による皮膚トラブルが増えています。
市販のステロイド外用剤には、すぐに効果が実感されるよう、麻酔薬や痛み止め成分が混ぜられていることが多くあります。
これらの成分は、アレルギーやかぶれを起こしやすく、かえって症状を悪化させることがあります。
薬剤師は医師ではない
薬局で薬剤師に相談することもできますが、薬剤師は医師ではありません。
実際に患者さんを診察した経験がないため、必ずしも正しい薬を勧めてくれるとは限りません。
特に顔の症状については、皮膚科専門医の診察を受けることが大切です。
ステロイドの副作用
顔や口周りに強いステロイドを長期間使用すると、以下のような副作用が出ることがあります。
- 皮膚が薄くなる(萎縮)
- 毛細血管が透けて見える
- ニキビのようなブツブツ(ステロイド座瘡)
- 口囲皮膚炎・酒さ様皮膚炎
- 色素沈着
これらの副作用は、一度出てしまうと元に戻すのが難しいことがあります。
ステロイドは決して「怖い薬」ではありませんが、使用場所や症状に応じた適切な使い分けが必要なのです。
4. こんな症状はすぐに受診を
以下のような症状がある場合は、早めに皮膚科を受診してください。
- 2週間以上ケアや市販薬を使っても改善しない
- 口の周りにブツブツができている
- 繰り返し同じ場所に症状が出る
- ステロイドを塗ると良くなるが、中止すると悪化する
- 貧血や疲れやすさ、食欲不振がある
- 舌の色が赤紫色になっている
これらは、単なる乾燥ではなく、専門的な診断と治療が必要なサインです。
5. まとめ
保湿剤や市販薬で治らない口唇炎の背景には、栄養欠乏や口囲皮膚炎が隠れていることがあります。
見逃されやすい原因:
- 栄養欠乏:ビタミンB群・鉄(フェリチン)・亜鉛の不足
サプリメント単独ではなく、バランスの取れた食事が基本
難治性の場合は血液検査で診断 - 口囲皮膚炎:ニキビと間違えやすい(コメドがないのが特徴)
ステロイドとの関連が強いが、多因子性の病気
ステロイド中止と抗生物質内服で治療 - ステロイド外用剤の適切な使用
使用場所や症状によって細かい使い分けが必要
市販品は添加成分によるアレルギーに注意
顔の症状は皮膚科専門医の診察を
それぞれ治療法が全く異なるため、自己判断せず、皮膚科専門医の診断を受けることが大切です。
「たかが唇の荒れ」と軽視せず、治らない症状が続く場合は専門医に相談してください。
適切な診断と治療で、必ず改善への道が開けます。
全3回にわたり、冬の唇トラブルについて解説してきました。
正しい知識を持って、健康な唇を保ちましょう。
(日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明)