
これまで2回にわたり、水仕事での予防策や効果的なハンドケアの方法についてお話ししてきました。 しかし、中には「どんなに気をつけても、どうしても手がボロボロになってしまう」という方もおられます。
「ハンドクリームを1日10回塗っても良くならない」
「夜、痒くて眠れないほど手が熱を持っている」
「指の関節がぱっくり割れて、何をしても痛い」
こうした状態は、単なる「肌の乾燥」の段階を超え、皮膚が「湿疹(炎症)」という病気の状態に陥っている可能性が高いのです。 最終回となる今回は、セルフケアの限界を見極めるサインと、皮膚科で行う適切な治療について詳しく解説します。
「乾燥」と「湿疹」の決定的な違い
多くの方は、手が荒れるとまず「保湿」を考えます。 しかし、保湿剤(ハンドクリーム)の役割は、あくまで肌のバリア機能を補い、水分を逃がさないようにすることです。
すでに皮膚の内部で激しい炎症が起きている場合、いくら上から保湿をしても、その火種を消すことはできません。
受診が必要なサイン
以下の症状がある場合は、もはや乾燥ではなく「手湿疹(てしっしん)」という治療が必要な疾患です。
- ❶ 強い痒みや痛み 夜も眠れないほど痒い、あるいは刺すような痛みがあります。
- ❷ 赤みと腫れ 皮膚全体が赤く、熱を持っています。
- ❸ ブツブツ(水疱) 小さな水ぶくれが指の側面や手のひらにできています。
- ❹ 深い亀裂 何度も同じ場所がぱっくりと割れ、血や汁(浸出液)が出ます。
【図1】放置せず皮膚科へ相談すべき症状
なぜ「早めの治療」が必要なのか?
「これくらいで病院に行くのは大げさかな」と我慢してしまう方が多いのですが、皮膚科医の立場からは、早めの受診を強くお勧めします。 その理由は、手荒れ特有の「悪循環」にあります。
❶ かゆみと掻破(そうは)の悪循環
皮膚の炎症が続くと、かゆみを伝える神経が敏感になります。 かゆいから掻いてしまい、その刺激でさらにバリア機能が壊れ、さらにかゆくなる……。 この「かゆみのサイクル」に入ると、自力で抜け出すのは困難です。
❷ 皮膚の「慢性化」と硬化
炎症が長引くと、皮膚は自分を守ろうとしてどんどん厚く、硬くなっていきます。 これを「苔癬化(たいせんか)」と呼びますが、一度硬くなった皮膚はさらに割れやすくなり、薬も浸透しにくくなるため、治るまでに非常に長い時間がかかるようになってしまいます。
【図2】かゆみの悪循環と皮膚の硬化
❸ 心理的なストレスとQOLの低下
手は常に視界に入る部位であり、人との接点でもあります。 見た目の変化や痛みは、自信の喪失や生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。
❹ 保湿剤そのものが刺激になる
「保湿は肌に良い」「スキンケアは安全」──そう思っている方は多いのではないでしょうか。 しかし実は、バリア機能が大きく低下し、炎症が起きている状態の皮膚に保湿剤(特にローションやクリーム)を塗ると、含まれている成分が刺激となり、かえって皮膚炎を悪化させてしまうことがあります。
健康な皮膚では問題なく使えていた保湿成分や防腐剤、香料などが、バリアが壊れた皮膚では「異物」として認識され、赤みやかゆみを引き起こすのです。 「ハンドクリームを塗れば塗るほど悪化する」という悪循環に陥っている方は、実はこの状態にあることが少なくありません。
だからこそ、炎症がある状態ではセルフケアに固執せず、早めに医療機関で適切な治療を受けることが重要なのです。
皮膚科で行う「手湿疹」の標準治療
病院では、まず正確な診断を行い、他の疾患(水虫などの真菌感染症や、特殊な皮膚疾患など)ではないかを確認します。 その上で、主に以下のような治療を行います。
ステロイド外用薬
先ほどお話ししたように、スキンケアは炎症が起きていたり、バリア機能が低下している時には逆効果になることがあります。 つまり「スキンケア=安全」ではないのです。
では、どうすればいいのか。 答えは「炎症を鎮めて、スキンケアが安全にできる状態まで皮膚を戻すこと」です。 その役割を担うのが、ステロイド外用薬です。
日々診療をしていて気づくのは、「ステロイドは怖い」「塗った時だけよくなるだけで、やめるとまた悪化するから意味がない」と思っている方が結構いらっしゃることです。 こうした不安や不信感を抱いている方の多くは、実はステロイドの本当の役割を誤解しています。
「ステロイドはそもそも手荒れを完全に治すための薬ではない」ということです。 先ほどお話ししたように、バリア機能が低下して炎症になった皮膚にとって、保湿成分が刺激となり、かえって皮膚炎を悪化させてしまいます。 つまり、皮膚炎になっている時には「保湿=危険」になっているわけです。
でも手荒れをよくするためには保湿は欠かせませんよね? そこでステロイドが必要になるわけです。 つまり、ステロイドの役割は「スキンケアができる状態まで皮膚を戻してあげること」、つまり「ケアのスタートラインに立たせてあげること」なのです。
【図3】ステロイドはケアの「スタートライン」に戻すためのもの
この理解が欠けていると、「ステロイドを塗っている間だけ良くなって、やめるとまた悪化する」という、よくある落とし穴に陥ってしまいます。 ステロイドで炎症を抑えた後は、徐々に保湿剤メインのケアに切り替えていく必要があります。 そして同時に、第1回・第2回でお話しした「手袋での予防」や「正しい保湿のタイミング」といった日常ケアを継続することが、再発を防ぐ鍵となるのです。
ステロイドはあくまで「炎症を鎮めてケアができる状態を作る薬」であり、「手荒れを治してくれる魔法の薬」ではないことを、ぜひ覚えておいてください。
その他の外用療法:抗炎症・保護薬
亀裂(ひび割れ)がひどい場合には、傷口を保護して修復を早める軟膏や、亜鉛華軟膏などを併用することもあります。
補助療法:光線治療(ナローバンドUVB・エキシマライト)
塗り薬だけではなかなか改善しない頑固な手湿疹(特に掌蹠膿疱症やアトピー性手湿疹など)に対しては、当院では光線治療を行うこともあります。 紫外線の特定の波長を当てることで、過剰な免疫反応を抑え、かゆみを直接和らげる効果が期待できます。 これは手のひらなど、皮膚が厚くて薬が効きにくい場所にも非常に有効な治療法です。
【図4】難治性の手荒れに有効な光線治療
正確な診断が「完治」への近道です
「毎年冬になると手が荒れるから仕方ない」と諦めないでください。 皮膚のバリア機能の仕組みを知って正確に予防をすれば毎年の手荒れからサヨナラすることができます。
またある程度以上皮膚のバリア機能がダメージを受けると「スキンケア=危険」になってしまうという意外な事実を知り、ハンドクリームがしみるようになったら早めに皮膚科専門医を受診してください。 当院のような皮膚科専門医は、その時の皮膚の状態を見極めて適切な治療を行っています。
まとめ:健康な手肌を保つために
全3回にわたってお届けした「冬の手荒れ対策」、いかがでしたでしょうか。
- 水仕事前: 「綿手袋+ゴム手袋」の二重装着で鉄壁の防御を
- 日常ケア: 「手を洗ったら乾く前にすぐ保湿」を1日何度も
- 異変を感じたら: 痒みや赤みがあるなら、迷わず皮膚科へ
- 大切なポイント: ステロイドは「スタートラインに戻す薬」、その後のケアが再発予防の鍵
手荒れは、適切なケアと早めの治療で改善できる疾患です。 「これくらいで受診するのは恥ずかしい」と思わず、気になる症状がある方はお早めにご相談ください。
健康な手肌を取り戻し、快適な日常生活を送りましょう。
日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明