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女性の薄毛(2) いつどこへ相談?

女性型脱毛症の診断

女性型脱毛症の診断―いつ、どう受診すべきか―

前回は女性型脱毛症がどのような病気なのか、男性型脱毛症との違いや女性特有の原因についてお話ししました。
今回は、実際の診断の流れと、いつ受診すべきかについて解説していきます。

なぜ診断が重要なのか

「髪が薄くなってきた」と感じたとき、すぐに育毛剤を試したくなる気持ちはよくわかります。
しかし、薄毛という症状は同じでも、その原因が違えば治療法は全く異なります。
女性型脱毛症だと思っていたら、実は甲状腺疾患や鉄欠乏性貧血が原因だったということも少なくありません。根本原因を治療しなければ改善しません。
女性型脱毛症と他の脱毛症を正確に見分けることが、適切な治療への第一歩となります。

受診を検討する症状

    • 抜け毛が明らかに増えた(シャンプー時や枕に付く抜け毛の増加)
    • 分け目が目立つようになった
    • 頭頂部の地肌が透けて見える
    • 髪全体のボリュームが減った

早めの受診が必要な症状

    • 数週間から数ヶ月で急速に薄毛が進行している
    • 円形に髪がごっそり抜けている部分がある
    • 頭皮に赤み、かゆみ、フケなどの炎症がある
    • 疲れやすい、むくみ、体重変化などの全身症状を伴う
女性の薄毛は外見の変化だけでなく、自信や生活の質に大きな影響を与えます。
「気のせい」と放置せず、早めに専門家の診断を受けることが大切です。

診断の流れ

女性型脱毛症の診断は、問診、視診、トリコスコピー、必要に応じて血液検査という流れで行われます。

問診で何を聞かれるか

問診は脱毛症の原因を特定するための最も重要なステップです。
    • 発症時期と経過 いつから薄毛に気づき、どのように進行しているか。 女性型脱毛症は通常、数年かけてゆっくり進行します。急激な進行は休止期脱毛や円形脱毛症などの可能性があります。
    • 家族歴 家族に薄毛の人がいるか。女性型脱毛症には遺伝的要因が関与しますが、家族歴がなくても発症することはあります。
    • 月経歴とホルモン状態 月経周期、閉経の有無、出産後かなど。 女性型脱毛症は更年期以降に多く発症しますが、多嚢胞性卵巣症候群などのホルモン異常が隠れている場合もあります。
    • 薬剤歴 現在服用中の薬を全て確認します。 抗凝固薬、抗てんかん薬、一部の降圧薬や脂質異常症治療薬など、様々な薬が脱毛の原因となりえます。 薬剤性脱毛は内服開始から2〜3ヶ月後に症状が現れることが多く、関連性に気づきにくいため注意が必要です。
    • 生活習慣 過度なダイエット、栄養不足(特に鉄欠乏や亜鉛不足)、強いストレスなども脱毛の重要な原因です。

視診で脱毛パターンを確認

実際に頭部を観察して脱毛パターンを確認します。
女性型脱毛症では、前頭部の生え際は比較的保たれたまま、頭頂部を中心に広範囲に薄くなるのが特徴です。
完全に毛がなくなることは少なく、細く短い軟毛が残っています。
円形脱毛症では特定部位の毛が完全に抜け落ち、牽引性脱毛症では長期間引っ張られていた生え際が後退します。このようなパターンの違いで鑑別診断を行います。

トリコスコピーによる詳細観察

トリコスコピーとは、拡大鏡を用いて頭皮や毛髪を詳しく観察する検査です。
肉眼では見えない細かい変化を捉えることができます。
女性型脱毛症では、毛髪の太さにばらつきが生じ(毛径多様性)、細い軟毛が増加している所見が見られます。
円形脱毛症では感嘆符毛(根元が細くなった短い毛)が特徴的です。
この検査は他の脱毛症との鑑別に非常に有用です。

血液検査が必要な場合

全ての患者さんに必須ではありませんが、以下の場合に検査を行います。
  • 甲状腺機能の評価 倦怠感、むくみ、便秘、体重変化などの症状がある場合や、眉毛の外側3分の1が薄い場合など、 甲状腺機能異常が疑われる場合は、甲状腺ホルモンを測定します。
  • 貧血と栄養状態 過度なダイエット歴、月経過多、疲れやすいなどの症状がある場合は、 血清鉄、フェリチン(貯蔵鉄)、必要に応じて亜鉛濃度を測定します。 フェリチンは貧血がなくても低下していれば鉄欠乏状態を示します。
  • ホルモン検査 多毛、にきび、月経不順などがあり多嚢胞性卵巣症候群が疑われる場合は、 男性ホルモンや女性ホルモンを測定することがあります。

女性型脱毛症の分類

診断が確定したら、重症度を評価します。Ludwig分類は日本、米国、欧州で広く使用されている国際標準的な分類法です。頭頂部を中心とした脱毛の程度を、I型からIII型の3段階に分けます。
  • I型(軽度) 頭頂部の毛髪が軽度に薄くなり、分け目の幅が少し広がって見えます。 前頭部の生え際から1〜3cmは保たれています。多くの患者さんがこの段階で受診されます。
  • II型(中等度) 頭頂部の脱毛が顕著になり、地肌が透けて見えます。 分け目の幅がさらに広がり、髪のボリューム感が明らかに失われますが、前頭部の生え際は保たれています。
  • III型(高度) 頭頂部の脱毛が高度に進行し、地肌がはっきりと見えます。 残っている毛髪も細く短い軟毛が主体です。 それでも男性型脱毛症のように完全に毛がなくなることは稀です。

日本と国際的な診断アプローチの比較

女性型脱毛症の診断は、基本的にどの国でも問診、視診、トリコスコピーによる鑑別が中心です。
  • 診断名と分類 日本、米国、欧州、韓国のいずれのガイドラインでも「女性型脱毛症(Female Pattern Hair Loss: FPHL)」という名称が用いられています。 Ludwig分類も世界的に広く使用されています。
  • 血液検査の考え方 日本では問診と視診で他疾患の合併が疑われる場合に鑑別目的で血液検査を推奨しています。 韓国のガイドラインでは、女性の薄毛の原因が多岐にわたることから、治療前に甲状腺機能や鉄欠乏などの基礎疾患をより積極的に除外するため、血液検査を推奨する傾向が強いです。

医療機関の選び方

  • 皮膚科専門医がいる医療機関を選ぶ 日本皮膚科学会認定の皮膚科専門医は、5年以上の研修と専門医試験の合格を経て認定されます。 女性型脱毛症だけでなく、円形脱毛症、休止期脱毛、薬剤性脱毛、全身疾患に伴う脱毛など、あらゆる脱毛症の鑑別診断ができます。 女性型脱毛症でも男性型脱毛症でも、診断に最も大切なことは「男性型脱毛症または女性型脱毛症以外の脱毛を除外できるかどうか」なのです。
  • オンラインではなく直接診察を受ける 写真や問診票だけで診断することは皮膚科専門医でも困難です。 実際に頭皮を診察してもらうようにしましょう。

まとめ

正確な診断なくして、効果的な治療はありません。
抜け毛が増えた、分け目が目立つ、地肌が透けて見えるなどの症状に気づいたら、早めに皮膚科専門医を受診することをお勧めします。(当院を受診される際は保険診療予約を取って受診してください)
次回は、女性型脱毛症と診断された後の標準治療について、エビデンスに基づく確実な治療法を詳しく解説します。
髪の悩みは一人で抱え込まず、まずは正確な診断から始めましょう。
日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明