子供の冬のスキンケア(1)|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科 子供の冬のスキンケア(1)|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科

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子供の冬のスキンケア(1)

冬のスキンケア

冬になると、乳児湿疹で受診される赤ちゃんが増えます。

「いつもと同じケアをしているのに、急に頬が赤くなった」

「カサカサが治らない」

といったご相談が多くなる季節です。

実は、この冬の肌トラブルは、単なる「乾燥」だけの問題ではありません。

近年の研究で、生後早期の皮膚トラブルが、将来の食物アレルギー発症リスクを高める可能性が明らかになってきました。

今回から2回にわたって、冬の乳児スキンケアについて、最新の医学的知見をもとに解説していきます。

第1回では「なぜ冬の肌ケアが重要なのか」、第2回では「具体的なケア方法」についてお話しします。

冬の環境が乳児の肌に与える影響

日本の冬季環境は、乳児の皮膚バリア機能に対して特に厳しい条件が揃っています。

  • 屋外:低温・低湿度 冬季の屋外は気温が低く、空気中の水分量(絶対湿度)が著しく低下します。
  • 屋内:暖房による乾燥 暖房を使用することで室内の相対湿度はさらに低下し、皮膚からの水分蒸発が促進されます。

日本の冬は、低い室内湿度と寒い外気温という、皮膚バリアに対する二重の悪影響があるのです。

冬の気候が乳児に与える影響のイラスト

季節とアトピー性皮膚炎の関係

複数の研究で、秋・冬生まれの子供はアトピー性皮膚炎の発症リスクが高いことが示されています。

大規模な信頼できる研究結果では、北半球では、春生まれと比較して、秋や冬生まれであきらかにアトピー性皮膚炎の発症率が高いことがわかっています。

これは、生まれて最初の数ヶ月間を最も乾燥する時期(冬)に過ごすことが、皮膚バリアの形成に悪影響を与えるためと考えられています。

この理由として考えられる要因:
  • 低温・低湿度による皮膚バリア機能の形成不全
  • 紫外線曝露の減少
  • 暖房による室内環境の乾燥
  • 皮膚バリア機能の成熟期に冬の乾燥を経験すること

乳児の皮膚バリア機能の特性

一般的に、正期産で生まれた赤ちゃんの皮膚バリア機能は、出生時には比較的良好です。

経表皮水分蒸散量(TEWL)という皮膚バリア機能の指標は、出生直後は成人と同等か、それより良好な数値を示します。

しかし、これは皮膚が「大人と同じように丈夫」ということではありません。

乳児の皮膚バリア機能の模式図

成人との構造的違い

乳児の皮膚には、成人と比較して以下のような特徴があります:

  • 角層が薄い 新生児の表皮の厚さは約50μmで、成人(最大500μm)の約10分の1しかありません。
  • 天然保湿因子(NMF)の発達 生後、徐々にNMFが増加していきますが、成人レベルに達するには時間がかかります。 複数の研究で、皮膚バリア機能が完全に成人レベルに達するには生後3〜4年かかることが示されています。

生後すぐの皮膚の特徴

生後数日から数週間は、子宮内の湿潤環境から外界の乾燥環境への適応期です。

この時期は皮膚表面のpHや水分保持能力が大きく変化します。

低温・低湿度の環境では、以下のような変化が起こります:

  • 皮膚からの水分蒸発量(TEWL)の増加(乾燥しやすい)
  • 天然保湿因子の生成低下(乾燥しやすい)
  • フィラグリン(皮膚バリアに重要なタンパク質)の分解促進(乾燥しやすい)
  • 皮膚表面のpH上昇(バリア機能低下)

経皮感作と食物アレルギーの関係とは?

1996年、イギリスで食物アレルギーの発症に全く新しい考え方が発見されました。

その考え方の前提となっているポイントは以下の2点です。

経皮感作と食物アレルギーの関係のイラスト
  • 経皮曝露による感作:バリア機能が低下した皮膚や炎症のある皮膚を通じて食物アレルゲンに曝露されると、免疫系が「これは危険な異物だ」と誤認識し、IgE抗体が産生されてアレルギー感作が成立します。
  • 経口摂取による寛容誘導:一方、適切な時期に食物アレルゲンを経口摂取すると、免疫系は「これは安全な物質だ」と認識し、寛容(トレランス)が形成されます。

この二つのポイントが示すのは、皮膚の健康を保つことの極めて大きな重要性です。

バリアが壊れた皮膚からアレルゲンが侵入し、感作が成立してしまうことを防ぐことが、食物アレルギー予防の第一歩となるのです。

経皮感作のメカニズムと皮膚ケアの重要性

皮膚バリアが障害されると、アレルゲンが真皮層に到達し、免疫細胞が活性化されます。

炎症がある環境では、アレルギー抗体が産生され、アレルギーになってしまいます。

実際の臨床観察でも、皮膚トラブルの早期治療の重要性が示されています。

  • 日本国内の研究では、生後0〜3ヶ月に4〜7日間という短期間の皮膚トラブルであっても、2歳時点での食物アレルギー発症リスクが有意に上昇することが報告されています。
  • また、別の研究では、早期に積極的にアトピー性皮膚炎を治療(ステロイド外用)した群は、治療が遅れた群と比較して、2歳時点での食物アレルギー発症が有意に少なかったことが示されています。

これらの知見は、「皮膚トラブルを重症化させない」「早期に適切に治療する」こと、つまり経皮感作の機会を徹底的に減らすことの重要性を強く示唆しています。

食べることでアレルギー予防?LEAP研究を知ろう

食物アレルギー予防における「早期の経口摂取による寛容誘導」の有効性を裏付ける決定的な証拠となったのが、LEAP研究(Learning Early About Peanut Allergy)です。

  • 研究結果:生後4〜11ヶ月からピーナッツを食べていた子供たちは、食べていなかった子供たちよりピーナッツアレルギーが81〜86%減少していました。
  • 長期的な影響:その後、ピーナッツを食べていた子供たちは12歳時点でも、しばらく摂取を中断してもピーナッツアレルギーになりづらいことが確認されました。

つまり、早めに「口から食物を食べる」ことで食物アレルギーを発症しづらいということが確認されたのです。

⚠️ 早めに食べる=安心ではない!

しかし、この結果を実際の臨床で適用する際には、細心の注意が必要です。

  • 個別評価の必要性: 特に重度の湿疹や既存の食物アレルギーを持つ乳児に対しては、単に「早期に食べさせる」のではなく、必ず専門医の指導の下で進める必要があります。
  • 検査によるリスク層別化: 導入に際しては、必要に応じて血液検査や皮膚プリックテストを行い、既に感作が成立している可能性がないか、また感作の程度はどうかを総合的に評価することが不可欠です。
  • 医療監視下の負荷試験: IgE抗体価が高値であるなど、既に強い感作が疑われる場合は、重篤なアレルギー反応のリスクがあるため、自己判断での摂取は極めて危険です。このような場合は、専門の医療機関において確定診断する必要があります。

したがって、早期導入は、経皮感作を避けるスキンケアを基本としつつ、専門医による適切なリスク評価と個別指導の下で進められるべき、食物アレルギー予防の重要な戦略となります。

保湿ケアはアレルギー予防になる?

「皮膚の荒れからアレルギーが始まる(経皮感作)」ことがわかって以来、「保湿剤をしっかり塗れば、アレルギーを予防できるのではないか?」という期待が高まりました。

これについて、現在までにわかっていることをお話しします。

日本のPETIT研究

2014年、日本で、とても大切な研究(PETIT研究)が行われました 。

  • 調べた赤ちゃん:アトピー性皮膚炎の家族がいるなど、アレルギーのリスクが高い赤ちゃんたち。
  • 行ったこと:生後1週間から約8ヶ月(32週)まで、全身に保湿剤を毎日塗ったグループと、塗らなかったグループに分けました 。
  • 結果:保湿剤を塗ったグループは、塗らなかったグループに比べて、アトピー性皮膚炎や湿疹になるリスクが約32%減りました 。
【PETIT研究】アトピー性皮膚炎の発症リスク比較
保湿なし
基準
保湿あり
32%減少

保湿ケアを行ったグループは、行わなかったグループに比べて発症リスクが約3割低下しました。

この研究は、「保湿ケアが赤ちゃんの肌を健康に保ち、アトピー性皮膚炎の予防に役立つ可能性がある」という希望を与えてくれました。

さらに、この研究では「湿疹がある赤ちゃんは、湿疹がない赤ちゃんよりも、卵アレルギーの感作(アレルギーになりやすい状態)が約3倍も高かった」ということもわかりました 。

世界の研究では違う結果も?

その後、イギリス(BEEP研究)やノルウェー(PreventADALL研究)など、世界中でさらに大規模な研究が行われました 。

しかし、これらの大規模研究の結果は残念ながら一致していません 。

  • 一部の研究では、保湿剤を塗ってもアトピー性皮膚炎の発症率に差がない
  • 保湿剤を塗ったグループのほうが、アレルギー発症が少し多い傾向がある??

結果が一致しない理由として、研究者たちは以下のような違いを挙げています 。

  • 使った保湿剤の種類:研究ごとに成分やワセリンかクリームかといった性質が違いました 。
  • 塗布の方法:親が毎日欠かさず塗れたかどうかの「頑張り度合い」の違い 。
  • 調べた子どもたち:アレルギーリスクの高い子だけを調べた研究と、すべての子を調べた研究の違い 。
  • 環境の違い:気候や文化的なスキンケアの習慣の違い。

現時点で「確実」なことと「今後の課題」

研究結果が完全には一致していなくても、専門家の間で一致している重要な考え方は乳幼児期からのスキンケアがとても大切だということです。

  • 皮膚の荒れはアレルギーの危険サイン:肌のバリアが壊れていると、そこからアレルゲンが侵入してアレルギー(経皮感作)が始まるメカニズムは、実験と臨床の両方で確認されています 。
  • 早期の湿疹は放置しないで:生後数ヶ月の短い期間の湿疹でも、将来のアレルギーリスクにつながることがわかっています 。
  • 炎症は早く治す:湿疹の赤みや炎症を早期に適切に治療してあげると、食物アレルギーのリスクを下げられる可能性があります 。

冬の乳児スキンケアで大切なこと

冬の乳児スキンケアで大切なことのまとめイラスト

ここまでの話を総合すると、以下の点が重要と考えられます:

1
皮膚バリア機能の維持

冬季は環境的に皮膚バリア機能が低下しやすい時期です。

適切なスキンケアで、バリア機能を維持することが基本となります。

2
皮膚トラブルの早期発見・早期治療

数日間の湿疹でもリスクになるという研究結果を踏まえると、「様子を見よう」と長期間放置せず、早めに医療機関を受診することが大切です。

特に以下のような場合は早めの受診を:
  • 赤みやカサカサが1週間以上続く
  • かゆがって掻き壊している
  • 浸出液が出ている
  • 顔面、特に頬や口周りに湿疹がある
3
顔面のケアを重視

食物アレルゲンは、食事の際に口周りや頬に付着しやすい部位です。

特に離乳食開始前後は、食後は口周囲を洗い流して保湿を丁寧に行いましょう。

4
早期の食物導入との組み合わせ

LEAP研究が示したように、皮膚バリアを守りつつ、適切な時期に経口摂取を開始することが、食物アレルギー予防の両輪となります。

ただし、明らかに皮膚炎が悪くなったり、嘔吐や蕁麻疹が出現する場合にはかならず専門医に相談してください。

次回は、具体的な冬の乳児スキンケアの方法についてお話します。

(日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明)