
紫外線と皮膚【第1回】
春が近づくと、患者さんからよくこんな声を聞きます。
「少し外を歩いただけなのに、顔が赤くなった気がする」
「去年よりしみが増えた気がするんです」
こうした症状の大きな原因となるのが「紫外線」です。
今回から数回に分けて紫外線が皮膚に与える影響についてお話していきます。
今回は紫外線の基本に加え、さらに踏み込んで、皮膚の中で何が起きているのか、どんな対策を取るべきかを詳しくお話ししていきます。
日本ではいつ紫外線が強い? 地域差と中国地方の傾向
日本では、紫外線量は季節によって大きく変わります。
- 最も紫外線が強いのは5月から8月
- 1年で紫外線量が最も多いのは6月
- ただし「日焼けしやすさ(UVB主導)」が強まるのは7~8月
春(3~5月)でも、実は紫外線量は冬の2倍以上になっています。
特に春先は肌がまだ冬の乾燥ダメージを引きずっているため、紫外線の影響を受けやすい時期です。
地域差について
- 南に行くほど(沖縄>東京>北海道)紫外線量が増える
- 標高が高いほど(山岳地帯)紫外線が強い
- 晴天が多い地域ではトータル曝露量も増加する
たとえば、北海道の冬は紫外線量が非常に少ないですが、沖縄では冬でも東京の春並みの紫外線が降り注ぎます。
中国地方では?
中国地方(岡山、広島、山口など)は、比較的晴天率が高い地域です。
特に岡山県は「晴れの国」と呼ばれるほど、日照時間が長いことで知られています。
気象庁のデータでも、岡山県は年間日照時間が約2000時間以上で、全国平均(約1900時間)より長いのです。
- 春から秋にかけて長期間、紫外線量が高い
- 晴れの日が多く、年間を通してUV曝露リスクが高い
- 冬でもUVAはそこそこ届く(夏の50~70%程度)
「真夏だけ気をつける」という意識では間に合わず、春先から秋口まで紫外線対策が必須です。
紫外線には種類がある ~波長と皮膚への影響~
種類 | 波長 | 肌への影響 |
---|---|---|
UVB | 280〜320nm | 肌表面に作用し、赤く炎症を起こす(日焼け・DNA損傷) |
UVA | 320〜400nm | 肌の奥、真皮層に到達し、コラーゲン破壊・老化促進 |
なぜ波長が違うと影響が異なるの?
波長が短いほどエネルギーは強いですが、浸透力は弱くなります。
逆に波長が長いほどエネルギーは弱いけれど、深くまで届くのです。
- UVBはエネルギーが強く、表皮の細胞(DNA)を直接攻撃します
- UVAは比較的穏やかですが、皮膚の奥(真皮)までじわじわダメージを与えます
たとえるなら、UVBは「短距離ランナーの強烈な一撃」、UVAは「長距離ランナーがじわじわ体を削る」ようなものです。
なぜUVAだけが窓ガラスを通過するの?
普通のガラスは短い波長(UVB以下)は遮断できますが、UVAのような長い波長は通過しやすい性質があります。
- 屋内でもUVAにさらされる(普通のガラスだと50~70%程度通過)
- 車の中でも、オフィスでも紫外線ダメージは進行する
室内でも、特に窓際に長時間いる場合は紫外線対策が必要です。
肌の自然防御:メラニンの役割
紫外線を浴びると、皮膚はメラニン色素を作り出します。
これは「肌を黒くしている」だけではありません。
- 紫外線を吸収・散乱し、DNAへのダメージを防ぐ
- いわば皮膚の天然サングラス
メラニンがないと、紫外線が直接DNAを傷つけてしまいます。
生まれつきメラニンが少ない「白皮症」の方が皮膚がんリスクが高いのはこのためです。
紫外線によるダメージメカニズム
コラーゲン破壊
UVAは真皮に到達し、真皮のコラーゲンやエラスチンを分解する酵素(MMPs)を活性化して、コラーゲン繊維を切断・変性させます。
- 肌のハリが低下
- しわ・たるみが進行
DNA損傷
UVBは表皮細胞のDNAを直接損傷します。
細胞が修復できないまま分裂を繰り返すと、突然変異が蓄積し、
- 皮膚がん(基底細胞がん、有棘細胞がん、悪性黒色腫) のリスクが高まります。
特に、小さい頃に強い日焼けを繰り返した人は、大人になってからの皮膚がんリスクが明らかに上昇することが知られています。
紫外線に対する具体的な対策
屋外対策
- 日常的にはSPF15〜30、PA+以上の日焼け止めをたっぷり使う
- 炎天下や長時間の屋外活動ではSPF50やPA++++が推奨される
- 帽子、日傘、UVカットサングラスを活用
- 10時〜14時の外出はなるべく控える
屋内対策
- UVカットフィルムを窓に貼る
- カーテンを閉めるだけでも紫外線量を減らせます
日常の心がけ
- 春先から秋口まで油断しない
- 曇りの日でも日焼け止めを使う
まとめ
紫外線は、ただの日焼けを超えて、しみ、しわ、たるみ、皮膚がんにまで関係する「見えない脅威」です。
けれども、正しい知識と習慣があれば、確実に防げるものでもあります。
未来の自分の肌のために、今日から一緒に紫外線対策を始めましょう!
(日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明)