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AGA治療は正確な診断が大切

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髪の毛が薄くなる理由は一つじゃない

「最近、髪の毛が薄くなってきた気がする…」
そんな悩みを抱えて、インターネットで検索したり、育毛剤を試したりしている方も多いのではないでしょうか。
でも、ちょっと待ってください。あなたの薄毛の原因は、本当にAGA(男性型脱毛症)でしょうか?
トリコスコピー(髪専用の拡大鏡)も使わずにオンラインで診断が可能なのでしょうか?
実は、髪の毛が薄くなる原因は想像以上にたくさんあります。
そして、原因が違えば治療法も全く変わってくるのです。
今回は、なぜ正しい診断が大切なのか、そして、実際に受診して診察を受ける必要性を皮膚科専門医の視点からお話ししていきます。

薄毛を引き起こす意外な病気たち

1. 円形脱毛症:突然現れる丸い脱毛斑

ある日突然、頭に10円玉くらいの丸い脱毛斑ができる病気です。
AGAのように徐々に薄くなるのではなく、その部分の髪の毛が完全に抜け落ちてしまいます。
これは自己免疫疾患の一種で、体の免疫システムが誤って自分の毛根を攻撃してしまうことで起こります。
ストレスが引き金になることもありますが、根本的な原因は免疫の異常です。
治療法もAGAとは全く違います。
  • ステロイドの塗り薬や注射
  • 免疫を調整する治療
  • 紫外線療法
AGAの薬を使っても、円形脱毛症には全く効果がありません。

2. 休止期脱毛:全体的に髪が薄くなる

髪の毛には「成長期→退行期→休止期」というサイクルがあります。
通常は全体の10%程度が休止期にありますが、何らかの原因でこの割合が30%以上に増えてしまうと、髪全体が薄くなってきます。
主な原因:
  • 出産後のホルモン変化(女性だけでなく、男性もストレスでホルモンバランスが崩れることがあります)
  • 急激なダイエット
  • 大きな手術や重い病気の後
  • 強いストレス
  • 栄養不足(特に鉄分、亜鉛、ビタミンD)
この場合、原因を取り除けば多くは自然に回復します。
AGAの薬を飲む必要はありません。

3. 甲状腺の病気による脱毛

甲状腺は首の前にある小さな臓器で、体の新陳代謝をコントロールするホルモンを作っています。
この甲状腺の機能が低下したり亢進したりすると、髪の毛にも影響が出ます。
甲状腺機能低下症の場合:
  • 髪の毛が細く、もろくなる
  • 眉毛の外側3分の1が薄くなる(特徴的!)
  • 全身の疲労感、むくみ、便秘なども
甲状腺機能亢進症の場合:
  • 髪の毛が柔らかく細くなる
  • 抜け毛が増える
  • 動悸、手の震え、体重減少なども
血液検査で甲状腺ホルモンを調べれば診断できます。
甲状腺の治療をすれば、髪の毛も回復してきます。

4. 薬の副作用による脱毛

意外と知られていませんが、多くの薬が脱毛を引き起こす可能性があります。
脱毛を起こすことがある薬(頻度5%以上):
  • 抗がん剤(最も有名)
  • 乾癬治療薬のエトレチナート(チガソン):25-75%と非常に高頻度
  • 双極性障害の薬の炭酸リチウム(リーマス):10-20%
  • てんかんの薬のバルプロ酸(デパケン):3.5-12%
  • 血液をサラサラにする薬のワルファリン(ワーファリン):1-10%
薬を飲み始めてから2〜3ヶ月後に脱毛が始まることが多いので、関連性に気づきにくいことがあります。

5. 脂漏性皮膚炎による脱毛

頭皮に赤みやフケ、かゆみがある場合は、脂漏性皮膚炎かもしれません。
これは頭皮の炎症によって毛根がダメージを受け、脱毛につながる病気です。
マラセチアという真菌(カビの一種)が関係していることが多く、抗真菌薬のシャンプーや塗り薬で治療します。
AGAと合併することもありますが、まず炎症を治さないと髪は生えてきません。

AGAとその他の脱毛症、どう見分ける?

AGAの特徴的なパターン

AGAには特徴的な進行パターンがあります(ハミルトン・ノーウッド分類):
  • M字型:額の生え際が後退し、M字型になる
  • O型:頭頂部から薄くなる
  • 複合型:M字とO型が同時に進行
重要なのは、AGAは側頭部と後頭部の髪は最後まで残るということです。
これは、この部分の毛根が男性ホルモンの影響を受けにくいためです。
もし側頭部や後頭部も薄くなっている場合は、AGAではない可能性が高いです。

オンラインで診断可能?

オンラインでAGAの診断治療ができるという広告をよく見かけますが、そんなことが可能なのでしょうか?
私達皮膚科専門医は、AGAで相談された時、以下のような点を詳しく確認します:
  • 脱毛のパターン
  • 頭皮の状態(炎症、フケ、脂っぽさ)
  • 髪の毛の太さや質
  • 他の部位の体毛の状態
さらに、トリコスコピー(拡大鏡)を使って毛根や頭皮を詳しく観察します。
この作業なくしては皮膚科専門医といえども正確な診断は難しいからです。
少なくとも私が「皮膚科専門医として正確に診断する」ことを求められたら、診察無しでは診断できません。

医者なら誰でもAGA専門医になれる?

日本では、医師免許があれば専門医資格がなくても、どの診療科でも開業できます。
つまり、皮膚科の専門的なトレーニングを受けていない医師でも「皮膚科」「AGA治療クリニック」と看板を出せるのです。
もちろん、皮膚科専門医でなくても自分でしっかりAGAの勉強をされて知識を身につけたドクターもおられます。
ただし、脱毛症の診断で重要なのは「AGAではない他の病気の知識があるか」です。

AGA治療の最重要点とは?

日本皮膚科学会の専門医になるためには以下の条件が必要です。
  • 5年以上の研修
  • 多数の症例経験
  • 専門医試験の合格
  • 定期的な更新(最新知識のアップデート)
皮膚科専門医は、AGAだけでなく、あらゆる皮膚疾患の知識と経験を持っています。
だからこそAGA診断で最も重要な「AGA以外の脱毛症を除外診断する」ことができるのです。

当院の診療方針

当院では、まず正確な診断を最重視しています。
AGAと診断した場合は、日本皮膚科学会のガイドラインに基づいた標準治療(フィナステリド・デュタステリド・ミノキシジル外用)を行います。
もしAGA以外の脱毛症が見つかれば、それぞれに適した治療を提案します。
原因がはっきりしない場合は、大学病院などと連携して精密検査を行うこともあります。

まとめ:急がば回れ、まずは正しい診断から

薄毛に気づいたとき、すぐに育毛剤を買ったり、ネットで薬を購入したりしたくなる気持ちはよくわかります。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
あなたの薄毛の原因は本当にAGAでしょうか?
  • 全く違う仕組みで起きている円形脱毛症かもしれません
  • 甲状腺の病気が隠れているかもしれません
  • 飲んでいる薬の副作用かもしれません
  • 栄養不足やストレスが原因かもしれません
正しい診断なくして、正しい治療はありません。
そして正しい診断には、専門的な知識と経験が必要です。
髪の悩みは、見た目の問題だけでなく、心理的な負担も大きいものです。
だからこそ、確実な診断と適切な治療で、できるだけ早く改善したいですよね。
次回は、AGAと診断された場合の標準治療について、世界と日本のガイドラインを比較しながら詳しく解説します。
なぜフィナステリドとミノキシジルが第一選択なのかについてもお話しします。
薄毛の悩みは一人で抱え込まず、まずは皮膚科専門医にご相談ください。
正しい診断から、あなたに最適な治療への道が開けます。

日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明