AGA治療に必要な”SNSリテラシー”|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科 AGA治療に必要な”SNSリテラシー”|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科

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AGA治療に必要な”SNSリテラシー”

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これまで2回にわたって、AGAの正しい診断の重要性と、世界標準の治療法についてお話してきました。
最終回となる今回は、皆さんが最も迷うであろう「ネットの情報は信用できるのか?」という疑問にお答えし、AGAと長期的に向き合うための現実的なアドバイスをお伝えします。
「○○を飲んだら3ヶ月で劇的に生えた!」 「個人輸入なら安く手に入る!」 それが本当なら素晴らしいことですよね。 ただ、その情報は本当に信頼できるものでしょうか?

個人輸入薬の恐ろしい実態

WHOの調査では、インターネットで販売されている医薬品の約50%が偽造品だと推定されています。 また、ED(勃起不全)治療薬を製造販売する製薬会社4社の合同調査(2016年)では、インターネットで入手したED治療薬の約40%が偽造品だったという衝撃的な結果が出ています。
偽造品の中には、有効成分が全く入っていないもの、有害物質が混入しているもの、表示と違う成分が入っているものもあります。 有効成分が入っていないだけなら健康には影響ないかもしれませんが、有害物質の混入があると、副作用に繋がります。
もし副作用が出ても、個人輸入薬には「医薬品副作用被害救済制度」が適用されません。 何が起きても自己責任です。
正規の医療機関で処方された薬なら、万が一重篤な副作用が出ても、国の救済制度で医療費や障害年金が支給されます。 でも個人輸入薬では、この安全網が一切ありません。

SNSの体験談、信じていいの?

「3ヶ月でフサフサに!」という劇的なビフォーアフター写真。 でも、ちょっと待ってください。その写真、本当に同一人物でしょうか? AIでいくらでも画像が作り出せるなんて、いまや誰もが知っていますよね。
また、照明や角度、髪型を変えるだけで、見た目は大きく変わります。
さらに問題なのは、「成功例」しか投稿されないということ。 効果がなかった人、副作用で断念した人の声は表に出てきません。 これを「生存者バイアス」といいます。
医学的な効果判定には、成功例も失敗例も含めた客観的なデータが必要です。 「実際に効果があった人がいる」ということと、「多くの人に一定以上の効果がある」こととは全く別物だと知っておきましょう。

AGAと長期的に向き合うために

効果が出るまでの現実的な期間

「1ヶ月で劇的改善!」は、髪の毛の成長サイクルを考えると不可能です。
毛髪のサイクル:
  • 成長期:2-6年(頭髪の80~90%)
  • 退行期:2-3週間(頭髪の10%)
  • 休止期:3-4ヶ月(頭髪の10%)
AGAで短くなった成長期を正常化するには時間がかかります。
現実的な効果発現時期
  • 3ヶ月:抜け毛が減り始める
  • 6ヶ月:産毛が生え始める
  • 12ヶ月:明らかな改善を実感
  • 18-24ヶ月:最大効果
焦らず、最低でも12ヶ月は続けることが大切です。

一年後が治療効果判定の目安

当院では内服開始時に写真を撮影し、基本的には1年後に写真判定を行っています。 患者さんは毎日自分の髪を見ているので「全然効果がない」と言って来られる方もしばしばおられます。 しかし、写真を取って画面で比べてみると「こんなに違うんですね」と言われる場合が多いです。
自己判断で「効果がない」と思ってやめてしまうとせっかく効果が出ているのにもったいないですね。 一年間は内服を続けるようにしましょう。
そして、一年も内服するのですからもしもニセモノの薬だったり効果が確かでないサプリメントだともったいないですね。 それに、そもそもAGAではなかったとしたらお金も時間も無駄になってしまいます。
きちんとした診断と安全な処方を受けられる皮膚科専門医での治療をお勧めします。

副作用との向き合い方

どんな薬にも副作用の可能性はあります。大切なのは、正しく理解して対処することです。
フィナステリド・デュタステリドの副作用
  • 性機能障害:1-5%
  • 肝機能異常:0.2%
ほとんどは軽度で、中止すれば回復します。定期的な血液検査で早期発見できます。
ミノキシジル外用の副作用
  • 頭皮のかぶれ:2-5%
  • 初期脱毛:10-20%(一時的)
初期脱毛は休止期に入っていて「抜けてくれないと新しい髪の毛が生えてこないので抜けた方が良い毛」が抜けていく現象です。
抜けてくれれば新しい毛が生えてきてくれます。つまり効果が出始めているサインです。
2-3ヶ月で落ち着きます。
重要なのは、医療機関で処方を受けていれば、副作用が出てもすぐに相談できるということです。

治療を中断したらどうなる?

残念ながら、AGAは進行性の疾患です。治療を中断すると:
  • 3-6ヶ月後:効果が徐々に失われる
  • 12ヶ月後:治療前の状態に戻る
治療前の状態に戻るだけなので、「やめるとかえって悪くなる」ようなことはありません。
様々な理由で止めなければならない場合には中止しても大丈夫です。

年齢別の現実的な目標設定

20-30代
  • 積極的な改善を目指す
  • 内服だけでなくミノキシジル外用剤の併用も検討
40-50代
  • 現状維持を基本目標に
  • 年相応の髪量を保つ
  • ミノキシジル外用剤の併用も検討
60代以降
  • 極端な薄毛を防ぐ
  • 副作用リスクとのバランスを重視
完璧を求めすぎず、「同年代の平均より少し良い」くらいを目指すのが現実的です。

治療にかかる費用の現実

標準治療の月額費用(当院の場合)
  • フィナステリド・デュタステリド:7,000円
  • ミノキシジル外用5%:5,500円
  • 併用した場合:12,500円
内服だけなら一年で84000円、外用を併用すれば年間で15万円程度です。
決して安くはありませんが、効果が不確実な治療に大金を使うより、確実な治療を継続する方が賢明です。
個人輸入なら月2,000円程度で済むかもしれません。
でも、診断の誤り(そもそも治療の必要がない・保険診療が必要など)、偽薬のリスク、副作用への対応、医師のフォローがないことを考えると、結局高くつく可能性があります。

生活習慣の改善は補助的だが大切

薬だけでなく、生活習慣の改善も髪の健康に影響します。
科学的根拠のある生活改善
  • 禁煙:血流改善で毛根への栄養供給UP
  • 十分な睡眠:成長ホルモンの分泌促進
  • バランスの良い食事:特に亜鉛、鉄分
  • ストレス管理:コルチゾールによる悪影響を防ぐ
  • 適度な運動:全身の血流改善
ただし、これだけでAGAが治ることはありません。あくまで補助的な位置づけです。

信頼できる情報源の見分け方

ネットの情報に惑わされないために、以下の点をチェックしてください。
信頼できる情報の特徴
  • 医師の実名と所属が明記されている
  • メリットだけでなくデメリットも説明
  • 「絶対」「完治」などの断定的表現を使わない
  • 学会のガイドラインに準拠している
注意すべき情報
  • 個人の体験談だけ
  • ビフォーアフター写真だけで科学的説明がない
  • 「医師推奨」と書いてあるが皮膚科・形成外科専門医ではない
  • 期間限定キャンペーン
  • 「返金保証」など過剰に商業的な宣伝

医療機関選びのポイント

信頼できる医療機関を選ぶためのチェックリスト:
  1. 医師の専門性 皮膚科専門医資格の有無(AGAだけでなく、他の脱毛症の知識が必要)
  2. 診察の丁寧さ 問診票・画像だけでなく、実際に頭皮を診察 トリコスコピーなどの検査機器の使用
  3. 説明の透明性 治療のメリット・デメリットを両方説明 費用を明確に提示
  4. 押し売りしない 高額な治療を強要しない 標準治療から提案

まとめ:焦らず、確実な一歩を

AGAは慢性疾患です。糖尿病や高血圧と同じように、長期的な管理が必要です。
でも、幸いなことに、AGAには確実に効果のある治療法があります。
治療の優先順位
  1. まず皮膚科専門医で正確な診断
  2. 世界標準の治療から開始(フィナステリド/デュタステリド+ミノキシジル外用)
  3. 12ヶ月以上継続して効果判定
  4. 効果不十分なら次のステップを検討
ネットの「奇跡の治療法」や「格安の個人輸入」に飛びつく前に、まず確実な標準治療を試してみてください。
多くの方がそれで十分な効果を実感されています。
髪の悩みは見た目だけの問題ではありません。自信や生活の質にも関わる大切な問題です。
だからこそ、確かな医学的根拠に基づいて、安全で確実な治療を選んでいただきたいのです。
AGAと向き合うのは、マラソンのようなものです。 最初から全力疾走する必要はありません。自分のペースで、確実に前に進んでいけばいいのです。
薄毛の悩みは一人で抱え込まず、信頼できる医療機関で相談してください。
正しい知識と適切な治療で、きっと前向きな変化を実感できるはずです。

日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明