
尋常性白斑の光線治療
これまでの3回で、光線治療のメカニズムから実際の治療法、そしてアトピー性皮膚炎や乾癬といった炎症性疾患への効果についてお話ししてきました。今回は、見た目に大きく影響する「尋常性白斑」の光線治療について詳しく解説します。 「急に肌の色が部分的に抜けてしまった」 顔・首・手のような人から見えやすい部分では特に患者さんの心理的な負担が特に大きい疾患です。光線治療が、失われた色素を取り戻すためにどのような役割を果たすのか、その可能性と限界についてお伝えします。白斑ってどんな病気?
尋常性白斑は、皮膚の一部が白く抜けてしまう病気です。これは、メラニン色素を作る細胞(メラノサイト)が何らかの理由で機能しなくなったり、破壊されたりすることで起こります。 白斑には大きく分けて2つのタイプがあります。「非分節型」は体の左右対称に白斑が現れることが多く、最も一般的なタイプです。手の甲、顔、首、体幹など、様々な部位に出現します。 「分節型」は体の片側だけに、神経の走行に沿って帯状に現れるタイプで、比較的若い年齢で発症することが多いです。どちらのタイプも、痛みやかゆみはありませんが、特に顔や手など目立つ部分に白斑ができると、患者さんのQOL(生活の質)に大きく影響します。なぜ光線治療で色素が戻るのか
白斑の部分では、メラノサイトが休眠状態になっているか、数が減少しています。光線治療は、この眠っているメラノサイトを「目覚めさせる」働きがあるのです。光線治療の効果の仕組み
まず、毛包(毛穴)の奥に残っているメラノサイトが活性化され、増殖を始めます。実は、白斑になっても毛包の奥にはメラノサイトが残っていることが多いのです。 次に、活性化したメラノサイトが白斑の部分に移動し、メラニン色素の産生を再開します。表面から見ると毛穴を中心として小さな色素の島が現れてそれが拡大していきます。 さらに、光線治療は白斑部分の免疫異常を正常化する作用もあります。白斑の原因の一つに自己免疫(自分の免疫がメラノサイトを攻撃してしまう)があると考えられており、光線治療はこの異常な免疫反応を抑える効果があるのです。部位によって効果が違う理由
白斑の光線治療で重要なのは、「部位によって効果に大きな差がある」ということです。 顔や首は最も反応が良い部位です。これらの部位は毛包が多く、メラノサイトが残存している可能性が高いためです。多くの患者さんで、3〜6ヶ月程度で色素再生の兆候が見られます。 体幹部(胸、背中、お腹など)も比較的良好な反応を示します。ただし、顔や首に比べると、効果が出るまでに時間がかかることが多いです。 一方、手足の先端部分(手の甲、指、足の甲など)は最も治療が困難な部位です。これらの部位は毛包が少なく、メラノサイトの供給源が限られているためです。根気強い治療が必要で、場合によっては1年以上続けても十分な改善が得られないこともあります。発症からの期間も重要なポイント
白斑の治療効果は、発症してからどのくらい時間が経っているかにも影響されます。 発症して1年以内の新しい白斑は、メラノサイトがまだ完全に失われていない可能性が高く、光線治療への反応が良好です。早期に治療を開始すれば、より高い効果が期待できます。 一方、10年以上経過した古い白斑では、メラノサイトがほとんど残っていない可能性があり、治療に対する反応が鈍くなります。ただし、古い白斑でも諦める必要はありません。時間はかかりますが、改善する例も少なくないからです。ナローバンドUVBとエキシマライト、どちらを選ぶ?
白斑の範囲と部位によって、使い分けを行います。 体表面積の10%以上に白斑がある場合は、全身型ナローバンドUVBが第一選択となります。広範囲を効率的に治療でき、週2回程度の照射で効果が期待できます。 限局した白斑(顔の一部、手の甲だけなど)の場合は、エキシマライトが適しています。健常部位への不必要な照射を避けながら、白斑部分だけに高出力の紫外線を集中的に照射できるため、より早い改善が期待できます。 特に顔面の白斑では、エキシマライトの方が色素再生が早いという報告もあります。当院では広範囲にナローバンドUVBを照射した後に、局所にエキシマライトを重ねて照射することもあり、よりよい治療結果になるように工夫しています。白斑の治療スケジュール
白斑の光線治療は、週1〜2回のペースで行います。最初の10〜20回(2〜5ヶ月)で、毛穴の周りに小さな色素の点が現れ始めることが多いです。これが色素再生の最初のサインです。 その後、これらの点が徐々に広がり、融合していきます。完全に色素が戻るまでには、部位や範囲にもよりますが、6ヶ月〜2年程度かかることが一般的です。 重要なのは、効果が出始めても治療を中断しないことです。せっかく再生し始めた色素も、治療を止めると再び失われてしまう可能性があるからです。効果が出やすい人、出にくい人
残念ながら、全ての患者さんに同じように効果が出るわけではありません。 効果が出やすい傾向にあるのは、発症から日が浅い方、症状が限局している方、若年者、初発の方などです。 一方、効果が出にくい傾向にあるのは、発症から長期間経過している方、広範囲に症状がある方、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を合併している方、何度も再発を繰り返している方などです。 ただし、これはあくまで傾向であり、個人差が大きいのが実情です。効果が出にくいタイプでも、諦めずに治療を続けることで改善する例も少なくありません。白斑の併用療法
ステロイド外用薬は、免疫抑制作用により白斑の進行を抑える効果があります。光線治療と併用することで、より早い色素再生が期待できます。 ビタミンD3外用薬も、メラノサイトの分化や増殖を促進する作用があり、光線治療との相乗効果が報告されています。(保険適応外) タクロリムス軟膏は、特に顔面の白斑に有効で、光線治療と併用することで良好な結果が得られることがあります。(保険適応外)正確な診断と早めの治療が大切
白斑治療で大切なのは、早めに治療を始めることです。病気の期間が長くなるほど治療に反応しづらくなり、症状が固定されてしまいがちです。 広範囲の白斑では、全身に均一に照射ができるナローバンドUVBを、狭い範囲や顔首の照射には副作用が少なく効果がたかいエキシマライトを適切に使用し始めることで、治療成績が上がります。 気になる症状がある場合には早めに皮膚科専門医で相談してみてください。日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明