前回は、ニキビが「毛穴の詰まり」から始まる慢性的な炎症性疾患であることをお伝えしました。
目の前の赤いニキビを治す「炎症の鎮火」だけでは、必ず再発してしまいます。
そこで重要になるのが、「毛穴の詰まりを根本から予防する」維持療法です。
世界のニキビ治療ガイドラインは、この予防をいかに徹底するかに焦点を当てて進化してきました。
今回は、世界の標準治療と日本の最新の治療ガイドライン(2023年版)を比較しながら、日常ですぐに役立つ外用薬の適切な使い方と、抗菌薬からの「卒業」戦略について解説します。
世界と日本のニキビ治療
現在の日本のニキビ治療は一部の重症型のニキビ治療内服薬を除いては世界の治療とほとんど変わりがありません。
まず、日本と世界のニキビ治療の「基本戦略」についてお話します。
欧米の標準戦略
- 現在のニキビ治療では「面皰(毛穴詰まり)治療の徹底」が最優先されます。
- ファーストチョイスは、レチノイド(アダパレンなど)と過酸化ベンゾイル(ベピオやデュアック)です。
- レチノイドと過酸化ベンゾイルの両方を配合したエピデュオという薬も使われます。
- 炎症が強い場合は初期の数週間のみ内服抗菌薬を併用しますが、すぐに抗菌薬を外し、レチノイド+BPOによる維持療法に移行します。
- 特に日本では以前からある抗菌剤の塗り薬もよくつかわれています
塗り薬をくわしく知ろう
日本のガイドラインで最も推奨度の高い外用薬は、主に以下の3種類です。これらを適切に使い分けることが、ニキビ治療成功の鍵となります。
1. レチノイド(例:アダパレン)
- レチノイドは、毛穴の異常な角化を正常化させ、詰まりを取り除く「予防薬の王様」です。抗炎症作用も持ち合わせています。
- 使い方のポイントは、ニキビがある場所だけでなく、ニキビができやすい毛穴全体に広く塗ることです。1日1回、夜の洗顔後に塗布します。
- 副作用として、使用開始初期に乾燥、赤み、皮剥けが起こりやすい(レチノイド皮膚炎)ことがあります。これは薬が効いているサインでもありますが、「保湿と使用量の調整(少量から開始、隔日使用など)」で乗り切れることがほとんどです。
2. 過酸化ベンゾイル(BPO)
- 日本ではベピオ(ゲル・ローション・ウォッシュ)、デュアック(ゲル)が使われています(2025年現在)
- BPOは、ピーリング作用で面皰の詰まりを取り除きつつ、強力な抗菌作用でアクネ菌の増殖を抑えます。抗菌薬と異なり、アクネ菌に耐性を生じさせないという最大の利点があります。
- 使い方のポイントは、レチノイドと同様に、炎症の有無にかかわらず広く塗布することです。朝または夜、1日1~2回使用します。
- 副作用として、レチノイドと同様の刺激症状に加え、衣類や寝具の漂白作用があります。「塗布後は手をよく洗い、完全に乾いてから寝具に触れる」ことを忘れないでください。
3. 配合剤(アダパレン+BPO)
- 上記2つの作用機序を組み合わせることで、相乗的な効果が期待できます。日本のガイドラインでも積極的に推奨されるようになりました。
- 炎症が強くても、面皰が主体でも、強力な初期治療と維持療法として有用です。
- 効果は明らかに優れていますが刺激や乾燥もとても出やすいため、当院では半分くらいの患者さんは使いこなせずに過酸化ベンゾイルやアダパレンに戻っているようです。
外用抗菌薬は「膿んだ所だけに」
抗菌薬(例:クリンダマイシン、ナジフロキサシン)は、日本で長く使われている塗り薬です。
赤く腫れたニキビを速やかに鎮静化させる「消防車」のような存在です。
しかし、その長期使用は、耐性菌を生み出すという重大なリスクを伴います。
耐性菌問題の深刻さ
- ニキビ患者への抗菌薬の長期使用は、その患者自身の皮膚だけでなく、鼻や喉、消化管などにいる他の細菌にも耐性を生じさせる可能性があります。
- アクネ菌が抗菌薬に耐性を持つと、いざ重症化した際に抗菌薬が効かなくなり、治療が極めて困難になります。
抗菌薬の使用ルール
- 第一に、使用は「膿んでいる時に、膿んでいるところだけ」に使うようにしましょう。ニキビ跡とかには何の効果もありません。赤くはれた状態がおさまったら、速やかに中止します。
- 第二に、他の塗り薬との併用です。抗菌薬は基本的に単独で使用せず、必ずBPOやレチノイド(耐性菌を生じさせない薬)と併用します。これは、抗菌薬が効いている間に面皰を予防する体制を整えるためです。
- ごく軽症でまだ面皰(毛穴詰まり)が少ない10代前半や、毛穴の炎症が単独に数個出ている程度の患者さんでは抗菌薬を単独で使うこともあります。
患者さんから「心配だから抗生物質をずっと使いたい」という声をよく聞きます。
抗生物質は炎症を素早く抑える優秀な薬ですが、長く使うと薬が効かない「強い菌」(耐性菌)を生み出してしまうこともあります。
、炎症が治まったらBPOやアダパレンという「膿むのを予防する塗り薬」に切り替えましょう。
外用薬の実践的な使い方
いくら良い薬でも、正しく使えなければ効果は出ません。以下の具体的な指導を参考にしてください。
基本の塗り方
- アダパレンやBPOは、ニキビが出やすい範囲に薄く塗ります。BPOでは衣類やマスクの漂白(薬が付いたところが白くなる)に注意が必要です。
- アダパレンは妊娠・授乳中の方は絶対に使ってはいけません。BPOは「禁止ではないが、リスクがある可能性がある」と書いてあります。主治医と相談して使用するかどうか決めましょう。
- どちらの薬も乾燥するので、保湿をかならず併用します。また、紫外線に弱くなりやすいので日焼け止めを必ず併用しましょう。当院では真夏に外で長時間運動をする人は週に2回程度に外用をとどめるようにお勧めしています。
塗布量の目安
- 薬の効果を最大限に引き出し、かつ副作用を最小限に抑えるには、塗布量が重要です。
- FTU(Finger Tip Unit:人差し指の先端から第一関節まで出した量)を基準に、「顔全体に塗った場合には約1FTU」と覚えてください。多すぎると乾燥のもとになりますし、少なすぎると効果が不十分になります。
刺激を減らすコツ
- ヒリヒリする場合は、隔日にする、量を半分にする、保湿してから10分後に薬を塗るなどの工夫をしてみてください。
- 赤くなる場合は、目・口の周り(最も刺激が出やすい)を避けて塗る、薄く広げるに徹するようにします。
- 皮むけが気になる場合は、保湿を先にする、洗顔を10~20秒に短縮する、ぬるま湯で洗うようにします。
- しみる場合は、乾いた肌に塗る(濡れた直後は避ける)、香料の少ない保湿に切り替えるなどの対策が有効です。
「痛くて続けられない」は我慢しないでください。調整しても辛い時は必ず主治医に相談を。薬の組み合わせ・濃度・頻度で必ず方法は見つかります。
治療効果が出るまでの時間は?
- 開始から2週間は、刺激が出やすい時期です。薄く・隔日などの工夫でやめずに続けるのが近道です。
- 4~8週で「膿んだニキビ」が少なくなってきます。「ニキビ跡の赤み」が消えるわけではないところがポイントです。膿んだニキビが減っていればニキビ跡は数か月かけて消えていきます。
- 赤みが消えてないから効いていないと思ってやめてしまうと、いつまでも赤みが治りません。膿んだニキビが少なくなっているかどうかに注目してください。
- 膿んだニキビが出なくなっていればそのまま塗り薬を続けます。膿んだニキビが減らない場合には内服薬の変更などを考えましょう。
まとめ
- ニキビの塗り薬治療は「早期の炎症コントロール(抗菌薬)」から「長期の面皰予防(レチノイド、BPO)」をうまく使い分けるのがポイントです。
- 大切なのは、「膿んだニキビをまず減らし、赤みが消えるまで薬を塗る」という長い付き合いの病期だと捉えることです。すぐに治ってしまうことはないからうまく付き合うことが大切なのですね。
- 世界と日本の塗り薬治療は、基本的に同じです。レチノイド+BPOが土台、抗生物質は短期、維持療法がカギ。違いは「選べる幅」や「肌質への配慮の強さ」にあります。
- ニキビ治療は「数週間単位」ではなく「数か月単位」で考えるのがポイントです。赤みをすぐ消したいのはとてもよくわかりますが、そのためにはまず膿んだニキビを減らすことが大切なのだ、としっかり理解しましょう。
日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明