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「毎日ちゃんとシャンプーしているのに、気がつくと肩に白いものが落ちている」
「頭がベタベタして、夕方になると髪がぺったんこになる」
「もしかして、ちゃんと洗えていないのかな……不潔だと思われていないかな」
——そんな経験はありませんか?
当院にも「シャンプーを変えても全然フケが治らない」と受診される方がたくさんいらっしゃいます。中には「自分の洗い方が悪いのではないか」「不潔にしているせいだ」と、長い間ご自分を責めてきた方もおられます。
先にお伝えしておきたいのですが、フケは「不潔」が原因ではありません。毎日きちんとシャンプーしていても起こる、れっきとした皮膚の病気です。
フケやべたつき、かゆみがなかなか治らない方の中には、「脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)」という皮膚の病気が隠れていることがあります。今回から数回にわたって、この脂漏性皮膚炎について詳しくお話ししていきます。
「ちゃんと洗っているのに……」は、あなたのせいではありません
フケが出ると「洗い方が足りないのかも」と思って、つい力を入れてゴシゴシ洗ったり、1日に何回もシャンプーしたりしてしまいがちです。
しかし実は、これが逆効果になっていることが少なくありません。洗いすぎると頭皮の皮脂が落ちすぎて乾燥し、それを補おうとしてかえって皮脂が大量に分泌されてしまうのです。「洗っても洗ってもベタベタする」という悪循環に心当たりがある方もいるのではないでしょうか。
脂漏性皮膚炎は清潔にしていても起こる病気です。原因は「不潔」ではなく、皮膚の常在菌と皮脂のバランスが崩れることにあります。フケのせいで人前に出ることに抵抗を感じたり、「自分は不潔なのでは」と自信をなくしたりしている方がいらっしゃったら、どうかご自身を責めないでください。
正しい知識と治療があれば、必ず改善できる病気です。
「フケ症」と「脂漏性皮膚炎」——境界線はどこ?
フケそのものは珍しい症状ではありません。軽いフケ(医学的には「頭部粃糠疹(ひこうしん)」と呼びます)は、国民の約半数が経験するともいわれており、ここまではいわば「体質」の範囲です。
しかし、以下のような症状が出てきたら、話は変わります。
- フケが白い粉ではなく、黄色っぽくベタベタしている
- 頭皮に赤みがある
- かゆみが続いている
- フケがかたまりになって頭皮にこびりついている
- 眉間、鼻のわき、耳の後ろにも同じような症状がある
こうした症状がある場合は、単なるフケ症ではなく脂漏性皮膚炎という「病気」である可能性があります。「たかがフケ」と思って放置してしまい、こじらせてから受診される方がとても多いのです。
乾燥フケ? 脂漏性皮膚炎? 見分けるポイント
「頭皮がカサカサしてフケが出る」という症状は、乾燥によるフケと脂漏性皮膚炎の両方で起こります。実はこの二つを混同している方がとても多いのですが、原因も対処法もまったく違います。
乾燥によるフケは、冬場や空気が乾燥する季節に多く、白くて細かいパラパラとしたフケが特徴です。頭皮全体がカサつく感じで、かゆみがあっても軽度のことがほとんどです。この場合は、洗いすぎを控えて保湿をすることで改善が期待できます。
一方、脂漏性皮膚炎のフケは、黄色っぽくベタベタしていたり、大きなかたまりになって頭皮に張り付いていたりします。フケだけでなく赤みを伴うのが大きな違いです。皮脂が多い部位(頭皮、眉毛、鼻のわき、耳の後ろなど)に集中して出るのも特徴です。
簡単にまとめると、「白くてパラパラ、赤みなし」なら乾燥の可能性が高く、「黄色くてベタベタ、赤みあり」なら脂漏性皮膚炎を疑う——というのがおおまかな目安です。
ただし、乾燥と脂漏性皮膚炎が同時に起きていることもありますし、乾燥だと思って保湿ばかりしていたら実は脂漏性皮膚炎だった、というケースも珍しくありません。自己判断で対処を続けるよりも、一度皮膚科で確認してもらう方が確実です。
なぜ、頭皮がボロボロになるのか?
脂漏性皮膚炎がなぜ起こるのか、その仕組みを簡単にお話ししますね。
まず知っておいていただきたいのは、頭皮は顔の2倍以上の皮脂を分泌する、体の中で最も脂が多い場所だということです。
私たちの頭皮には、マラセチアというカビの一種(真菌)が誰の皮膚にもいます。このマラセチアは皮脂を「エサ」にして暮らしている、いわば皮膚の住人です。
普段は問題なく共存しているのですが、皮脂の量が増えるとマラセチアもどんどん増殖します。そしてマラセチアが皮脂を分解するときに出る「食べかす」(遊離脂肪酸と呼ばれます)が皮膚を刺激して、赤みやかゆみ、フケといった炎症を引き起こすのです。
つまり、皮脂が増える → マラセチアが増える → 「食べかす」が皮膚を刺激して炎症が起きる——これが脂漏性皮膚炎の基本的なメカニズムです。
さらに炎症が起きると皮膚のバリア機能が壊れ、バリアが壊れるとさらに刺激を受けやすくなり……という悪循環に陥ります。フケ用シャンプーだけではなかなか治らないのは、この悪循環が続いているためです。
繰り返しになりますが、この仕組みからもわかるように、脂漏性皮膚炎は「洗い方が悪い」とか「不潔にしている」ことが原因ではありません。皮脂の量や常在菌のバランスは、体質・ホルモン・ストレス・食事など、さまざまな要因で変動するものです。
悪化しやすいのはどんな人?
脂漏性皮膚炎には、なりやすい人とそうでない人がいます。
まず、男性は女性よりも皮脂の分泌量が多いため、男性に多い病気です。これは男性ホルモンが皮脂腺を活性化させることと関係しています。思春期以降の男性に多く、30代〜40代で受診される方が目立ちます。
ただし、女性でも発症します。特にホルモンバランスが変動する時期(産後や更年期など)には注意が必要です。
そのほかにも、ストレスや睡眠不足、偏った食事は皮脂分泌を増やす方向に働きます。当院でも、仕事が忙しくなった時期に急にフケがひどくなったと受診される方が少なくありません。
また、冬場は空気が乾燥して皮膚のバリア機能が低下するため、炎症が悪化しやすい季節です。一方で、夏は皮脂分泌が増えるため、夏に悪化するタイプの方もいます。つまり、季節の変わり目に症状が出やすい病気でもあるのです。
「自分で判断」が難しい理由
「フケが出るからフケ用シャンプーを使おう」「乾燥かもしれないからオイルで保湿しよう」と考えるのは自然なことです。でも、ここに落とし穴があります。
先ほどお話ししたように、乾燥フケと脂漏性皮膚炎ではそもそも原因がまったく違いますし、頭皮にフケや赤み、かゆみを起こす病気は、脂漏性皮膚炎だけではありません。
たとえば、頭部の乾癬(かんせん)は、脂漏性皮膚炎と見た目がとてもよく似ています。しかし乾癬のフケは銀白色で厚みがあり、剥がすと点状に出血するという特徴があります。治療法はまったく異なりますので、正確な診断が欠かせません。
ほかにも、特定のシャンプーや整髪料によるかぶれ(接触皮膚炎)や、アトピー性皮膚炎の頭皮症状、さらには頭の水虫(白癬)なども、フケや赤みを引き起こします。
実際に、「市販のフケ用シャンプーをいくつも試したけど全然治らない」と受診される方の中には、そもそも脂漏性皮膚炎ではなかった、というケースが珍しくありません。また、乾燥だと思って保湿を頑張っていたら、皮脂を好むマラセチアをかえって喜ばせてしまい、症状が悪化していた——ということもあります。原因が違えば、対処法が真逆になることもあるのです。
皮膚科専門医であれば、症状の分布パターンやフケの性状、拡大鏡(ダーモスコピー)での観察などから、これらの病気を正確に見分けることができます。自己判断でシャンプーやドラッグストアの薬を使い続けて時間とお金を無駄にしてしまう前に、一度きちんと診断を受けることをおすすめします。
こんなときは皮膚科を受診してください
最後に、受診の目安をまとめておきます。以下に当てはまる方は、一度皮膚科専門医に相談してみてください。
- 市販のフケ用シャンプーを2〜3週間使っても改善しない
- かゆみが強く、つい頭を掻いてしまう
- フケが黄色っぽく、ベタベタしている
- 頭皮だけでなく、眉毛・鼻のわき・耳の後ろにも赤みやカサカサがある
- フケと一緒に抜け毛が増えてきた気がする
- 頭皮のにおいが気になるようになった
「フケくらいで病院に行くのは大げさかな」と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、脂漏性皮膚炎は放置すればするほど治りにくくなる病気です。炎症がこじれる前に原因をはっきりさせて適切な治療を始める方が、結局は近道になります。
そして何より、フケやべたつきで長い間つらい思いをされてきた方は、それが「清潔にしていれば治る」ものではなく「治療で改善できる病気」であると知るだけで、ずいぶん気持ちが楽になるのではないかと思います。
次回は、脂漏性皮膚炎と「頭皮のにおい」「抜け毛」との関係についてお話しします。
日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明