ニキビ(4)女性難治ニキビとピル|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科 ニキビ(4)女性難治ニキビとピル|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科

Blog ブログ

ニキビ(4)女性難治ニキビとピル

前回までに、ニキビの基礎知識、外用薬による標準治療、重症例に対するイソトレチノインについて解説してきました。
今回は、標準治療を適切に行っても改善しない大人の女性のニキビに対する選択肢として、低用量ピル(経口避妊薬)について詳しくお話しします。

大人ニキビとホルモンバランス

20代から30代以降の女性に多い「大人ニキビ」には、思春期のニキビとは異なる特徴があります。
額や鼻周り(Tゾーン)ではなく、フェイスライン、顎、口周り、首筋(Uゾーン)に繰り返しでき、生理の1〜2週間前に悪化し、生理が始まると少し落ち着くというパターンを示します。
このような月経周期に連動するニキビには、女性ホルモンと男性ホルモン(アンドロゲン)のバランスが深く関わっています。
低用量ピルは、このホルモンバランスを整えることで、皮脂分泌を抑制し、ニキビの改善を図る治療法です。

OCとLEP―保険適用の違い

低用量ピルには、目的によって呼び名と保険適用が異なります。
OC(経口避妊薬)は、主に避妊を目的とした薬で、日本では基本的に自費診療となります。ニキビや生理痛の改善は副次的な効果という位置づけです。
一方、LEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)は、成分はOCとほぼ同じですが、「月経困難症」や「子宮内膜症」といった婦人科疾患の治療薬として承認され、保険適用されています。
重要な点は、OC・LEPともに「ニキビ治療」としては日本で未承認であり、保険適用外だということです。
月経困難症などの治療が主目的で、ニキビ改善は付随的な効果として期待する場合、または純粋にニキビを目的とした自費診療として使用することになります。
自費の場合、1シート(1ヶ月分)あたり2,000〜3,000円程度が相場です。保険適用のLEPでは、3割負担で月あたり数百円から1,000円台程度となります。

ピルの世代による効果の違い

ピルは、含まれる黄体ホルモン(プロゲスチン)の種類によって第1世代から第4世代に分類され、ニキビへの効果が異なります。
第2世代(トリキュラー、アンジュなど)は、日本で古くから使われていますが、ホルモン成分にわずかながら男性ホルモン作用があるため、ニキビ治療の第一選択にはなりません。
第3世代(マーベロン、ファボワールなど)は、男性ホルモン作用が抑えられており、ニキビ治療に適しています。
第4世代(ヤーズ、ヤーズフレックス、ジェミーナなど)は、男性ホルモンをブロックする作用(抗アンドロゲン作用)を持ち、ニキビやむくみに高い効果が期待できます。これらはLEP製剤として月経困難症などに保険適用があります。

世界と日本のガイドラインでの位置づけ

ニキビ治療における低用量ピルの位置づけは、国際的に統一されていません。
アメリカ皮膚科学会(AAD)や英国(NICE)のガイドラインでは、塗り薬治療を行っても効果が得られず、月経周期との関連が明確な場合には「推奨される治療選択肢」として明記され、特に抗生物質の長期使用を避けるための代替手段としても位置づけられています。
一方、日本皮膚科学会の最新ガイドライン(2023年版)では、低用量ピルは「推奨しない(推奨度C2)」とされています。
これは「危険な薬」という意味ではなく、「日本ではニキビ治療薬として承認されておらず、保険が効かないため、標準的な治療としては推奨できない」という制度上の理由が大きいのです。

標準治療が大前提

日米欧ともガイドラインでは、まず標準治療(アダパレンや過酸化ベンゾイルなどの外用薬)をしっかり行うことが大原則とされています。
安易に最初からピルに頼るのではなく、基本の治療を尽くしても改善しない場合で、皮疹の分布や月経による症状変化が明らかな場合に初めて検討されるべき選択肢です。

どのような場合に検討すべきか

低用量ピルの使用を検討するのは、以下のような条件が揃った場合です。
  • 標準治療(外用レチノイド、過酸化ベンゾイル)を数ヶ月以上適切に継続しても改善が見られない場合。
  • フェイスライン、顎、首筋など、男性ホルモンの影響を受けやすいUゾーンに集中してニキビができる場合。
  • 生理の1〜2週間前に必ず悪化し、生理後に落ち着くという明確な周期性がある場合。
このような特徴がある場合、ホルモンバランスの乱れによって皮脂が過剰に分泌され続けている可能性があり、ピルによる治療効果が期待できます。

安全に使用するために

低用量ピルは、副作用のリスクもある医薬品です。
特に「血栓症(血管の中で血液が固まる病気)」のリスクには注意が必要で、喫煙者、肥満の方、前兆のある片頭痛を持つ方などは服用できないことがあります。
また皮脂分泌が多くて全身の毛が濃いめの人の場合には多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの婦人科疾患が隠れていることもあります。
そういった婦人科疾患を除外し、子宮や卵巣の状態チェック、がん検診なども含めて、婦人科で相談・処方してもらうことが望ましいのです。
当院では婦人科に紹介して処方を受けられるかどうかを必ず確認し、婦人科からピルの処方を行ってもらっています。

まとめ

低用量ピルは、標準治療で改善しない大人ニキビに対する有効な選択肢となり得ますが、決して「魔法の薬」でも「誰にでも勧められる薬」でもありません。
まずは皮膚科で標準治療をしっかり行い、それでも悩みが解決しない場合に、医師と相談しながら正しく取り入れていくことが重要です。
標準治療では効果がなく、ホルモンバランスが関係している可能性が高い女性の大人ニキビでお悩みの方もお気軽にご相談ください。
(日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明)