女性の薄毛(3) 世界の標準治療は?|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科 女性の薄毛(3) 世界の標準治療は?|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科

Blog ブログ

女性の薄毛(3) 世界の標準治療は?

女性の薄毛治療

前回は女性型脱毛症の診断について解説しました。今回は、診断後にどのような治療が行われるのか、世界各国のガイドラインで推奨されている標準治療について詳しくお話しします。

医学におけるガイドラインとは

医療の世界には「ガイドライン」というものがあります。その分野の専門家たちが世界中の研究結果を集めて分析し、「この治療法は効果がある」「この方法は効果が不確実」といった判断をまとめた、治療の教科書のようなものです。

個人の経験談や一つの研究結果だけでなく、何千人、何万人ものデータをもとに作られているため、信頼性が高いのが特徴です。

世界の女性型脱毛症の標準治療

ミノキシジル外用

ミノキシジル外用は、女性型脱毛症に対して、日本・韓国・米国・欧州で唯一の「強く推奨」される治療法です。

ミノキシジルはもともと高血圧の薬として開発されましたが、髪を生やす効果が発見されて育毛剤になりました。血管を拡張して毛根への血流を増やし、毛母細胞を直接刺激することで髪の成長を促進します。

日本での推奨濃度

日本皮膚科学会ガイドラインでは、女性には1%製剤が推奨されています。男性に推奨される5%製剤に比べて濃度が低いのは、女性では高濃度製剤で顔の多毛などの副作用が増える可能性があるためです。

効果の実際

効果を実感するまでに通常4~6ヶ月程度の継続的な使用が必要です。また、使用を中止すると効果は失われ、元の状態に戻るため、継続治療が必要です。

使用方法

1日2回、頭皮に直接塗布します。シャンプー後、頭皮が完全に乾いた状態で使用してください。毛髪ではなく頭皮に塗ることが重要です。

副作用

頭皮のかゆみやかぶれが2〜5%程度に見られます。

また、使用開始後2〜3ヶ月で一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」が起こることがありますが、これは休止期の古い毛が抜けて新しい毛が生える準備をしているサインです。

なぜミノキシジル外用が強く推奨されるのか

医学の世界で治療法が「強く推奨」されるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 大規模な臨床試験で効果が証明されている
  • 複数の国で同じ結果が再現されている
  • 10年以上の長期安全性データがある
  • 副作用のリスクが明確で管理可能

ミノキシジル外用は、これらすべての条件をクリアしています。

当院では1%濃度で副作用が出ないかを確認し、場合によっては5%濃度外用剤に切り替えています。

男性用の飲み薬はダメ!

男性型脱毛症に有効なフィナステリドやデュタステリドといった5α-還元酵素阻害薬は、女性には効果が証明されていません。

それどころか、妊娠中の女性が服用すると男子胎児の生殖器に異常をきたす危険性があるため、女性には禁忌とされています。

このような薬が誤って女性に処方されないよう、注意が必要です。

その他の治療法の評価

低出力レーザー治療(LLLT)

家庭用の低出力レーザー機器を使用する治療法です。

補助療法として一定の効果が認められていますが、効果は穏やかで、単独使用よりミノキシジル外用との併用が推奨されています。

当院では行っていません。

ミノキシジル内服

現時点(2025年)では、ミノキシジルの内服は世界中どこのガイドラインでも女性型脱毛症の治療薬として推奨されていません。

治療効果に対する副作用のリスクが高いためです。

心臓への負担、むくみ、多毛症などのリスクがあります。

ただし、低用量のミノキシジル内服の効果については分析がすすんでおり、実際に投与が行われているケースもあります。

ただし、日本ではミノキシジル内服薬で認可されている薬剤がないため、すべて個人輸入での治療となっています。

当院では2025年現在はミノキシジル内服はお勧めしていません。

スピロノラクトン内服

スピロノラクトンという血圧を下げる薬にある抗男性ホルモン作用を利用した抜け毛治療です。

標準治療として採用している国はありませんが、臨床的に使われているケースもあります。

男性ホルモンの分泌が過剰であるサイン(月経不順・ひどいニキビ・体毛が濃いなど)があり、女性型脱毛以外の脱毛がきちんと除外できている場合に使用されます。

ただし、妊娠・授乳中には使用できません。また、特に高年齢女性では高カリウム血症(重篤な不整脈などの症状)を起こすこともありますので、慎重な投与が必要です。

当院では少なくとも半年以上のミノキシジル外用剤で全く効果が見られない場合に投与を検討することがあります。

各種サプリメント

パントガールなど、髪の成長に必要な栄養素を配合したサプリメントが市販されていますが、現段階では「効果があった例もある」というレベルです。

大規模な臨床試験で効果が証明されているわけではないため、ガイドラインでは推奨されていません。

原因別の治療アプローチ

女性型脱毛症の診断がついても、他の要因が脱毛に影響している場合は、それらへの対応も重要です。

栄養不足が原因の場合

血液検査で鉄欠乏や亜鉛不足が判明した場合は、それらを補充する治療を優先します。

鉄欠乏性貧血

鉄剤の内服または注射で治療します。フェリチン(貯蔵鉄)が正常化するまで数ヶ月かかることがあります。

亜鉛欠乏

亜鉛製剤を補充します。過剰摂取は銅欠乏を引き起こす可能性があるため、医師の指導のもとで使用します。

甲状腺疾患が原因の場合

甲状腺機能低下症または亢進症が見つかった場合は、内分泌内科と連携して甲状腺の治療を行います。甲状腺機能が正常化すれば、多くの場合、脱毛も改善します。

薬剤性脱毛の場合

現在服用中の薬が原因と判明した場合は、処方医と相談して薬剤の変更や中止を検討します。

治療効果が出るまでの期間

「いつから効果が出るのか」は、患者さんが最も気になる点です。

どの治療を行った場合でも、毛髪の成長サイクルを考えると、最低でも6ヶ月、通常は12ヶ月は継続することが大切です。

「1ヶ月で劇的改善」は毛髪の成長サイクル上、不可能です。焦らず、継続することが重要です。

治療費用の実際

ミノキシジル外用1~5%外用剤は、薬局で購入可能な一般用医薬品として販売されています。

きちんと診断を受けた後なら薬剤師さんと相談して一般の薬局で購入できます。

当院でも購入可能です。

生活習慣の改善

薬物療法と並行して、生活習慣の改善も髪の健康に影響します。

科学的根拠のある生活改善
  • バランスの良い食事:特にタンパク質、鉄分、亜鉛、ビタミンDを意識
  • 十分な睡眠:成長ホルモンの分泌促進
  • ストレス管理:慢性ストレスは脱毛を悪化させる
  • 禁煙:血流改善で毛根への栄養供給向上
  • 頭皮ケア:分け目を時々変える(牽引性脱毛の予防)

ただし、これだけで女性型脱毛症が治ることはありません。あくまで補助的な位置づけです。

治療を続けるために

女性型脱毛症は慢性疾患

女性型脱毛症は慢性疾患です。糖尿病や高血圧と同じように、長期的な管理が必要です。

治療中断のリスク

ミノキシジル外用を中止すると、3〜6ヶ月後には効果が徐々に失われ、12ヶ月後には治療前の状態に戻ります。

治療前の状態に戻るだけなので、「やめるとかえって悪くなる」ことはありませんが、治療効果を得るためには継続が必要です。

現実的な目標設定

完璧を求めすぎず、「同年代の平均より少し良い」くらいを目指すのが現実的です。

副作用と効果を比較してバランスの良い治療を心がけましょう。

まとめ

女性型脱毛症の標準治療は明確です。

確実に効果がある治療

ミノキシジル外用製剤が唯一の「強く推奨」される治療法です。これが世界共通の「ゴールドスタンダード」です。

補助療法として認められているもの

低出力レーザー治療、自毛植毛(薬物療法無効例)があります。

標準治療ではないが使用されることがあるもの

低用量ミノキシジル内服、スピロノラクトン内服など。

基本方針

安全性と効果が長期的に証明されたものから始めて、効果を見ながら次のステップを考える。これが最も合理的なアプローチです。

当院では症状の診察・トリコスコピー(拡大鏡)に加えて血液検査を行い、まず診断をきちんと確定したうえで、世界標準の治療であるミノキシジル外用剤を使用しています。

また、血液検査で不足が認められたり異常がある場合には内服薬などでその治療を行います。

そして半年間以上標準治療を行ったうえで効果が見られない場合のみ標準治療以外の治療法を検討しています。

大切なのはきちんとした診断であることは変わりありません。

女性型脱毛症以外の脱毛症を除外することが最も診断で重要なポイントです。

抜け毛でお悩みの方はお近くの皮膚科専門医にぜひ相談してみてください。

日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明