肉眼では肝斑が見えない頬でも、特殊な光で撮影すると、ごく薄い肝斑が見つかることがあります。日本人女性223人を調べた研究では、通常の光では肝斑が確認できなかった人の28.3%に、紫外線写真でごく軽い肝斑が見つかりました。
シミの相談で皮膚科医が見ているのは、目の前にある茶色い点の濃さや形だけではありません。いつからあり、どう変わってきたのか。肉眼では見えない色素が周りに隠れていないか。拡大すると、色素や血管がどのように見えるのか。こうした情報を重ねて、治療するのか、何から治療するのか、どの機械を使うのかを決めていきます。
前回の記事では、シミ治療は「レーザーか光治療か」を見た目だけでは決められない、とお話ししました。では、皮膚科医は診察室で実際に何を確かめているのでしょうか。今回は、当院の初診の流れに沿ってお話しします。
目次
最初の問診で、治療の順番が見えてきます
診察は、写真を撮る前に、話をうかがうところから始まります。質問のひとつひとつに、治療を左右する理由があります。
「いつからありますか」「夏と冬で濃さは変わりますか」とうかがうのは、シミの種類によって現れ方が違うからです。そばかすは子どものころから、年齢によるシミは中年以降に目立ってきます。夏に濃くなり冬に薄くなるなら、肝斑を疑います。
妊娠、ピルやホルモンの治療について尋ねるのも、同じ理由です。肝斑は、妊娠やホルモン剤の使用、紫外線と関わりが深いことが、多くの国の患者さんを対象にした調査で知られています。肝斑が疑われれば、飲み薬の選び方も変わります。肝斑に使うトラネキサム酸は、エストロゲンを含むピルを使っている方には使いません。
これまでに受けた治療も、必ずうかがいます。他院でレーザーを受けたあとに色が濃くなった経験があれば、そのとき何を治療したのか、どのような経過だったのかを確認します。炎症後色素沈着だったのか、もともと肝斑が重なっていたのかによって、次の治療方針が変わるからです。同じ場所に何度も色が出てくる場合は、シミではない病変を考える手がかりにもなります。
肉眼では見えない肝斑を、画像で探します
問診のあとは、顔の画像を撮影します。当院では、赤み(血管や炎症)を写す光、シミなどの茶色(色素)を写す光、自然光の3種類で、正面と左右の3方向から撮っています。
冒頭の研究は、このような撮影の意味をよく表しています。ごく軽い肝斑が見つかった方に光治療を行うと、肝斑のような色素沈着が出ることがあります。一方、撮影で肝斑を把握して出力を弱めた方では、その合併症は起きていませんでした。
見えていなかった肝斑が、治療をきっかけに目立ってくることがあります。だからこそ、照射の前に見ておく必要があるのです。ただし、画像はあくまで判断の材料のひとつです。画像だけで診断が決まるわけではなく、問診や、次にお話しする拡大での観察と合わせて判断します。
気になる病変は、拡大して色素の並び方を見ます
画像で全体を見たあと、気になる病変はダーモスコピーという拡大装置で観察します。肉眼では同じ茶色に見えても、拡大すると、色素の並び方や毛穴の周りの模様、血管の形に違いが見えてきます。
特に気をつけているのが、シミによく似た皮膚がんです。悪性黒子という、表皮の中にとどまっているメラノーマは、初期には平らな茶色で、老人性色素斑と見分けがつきにくいことがあります。拡大すると、毛穴の周りを囲むように広がる灰色の色素などが手がかりになります。
診断がついていない色素性の病変に先にレーザーを当てると、その後の診断が難しくなり、発見が遅れる可能性があります。ダーモスコピーでも確実に見分けられるわけではないので、判断に迷う病変は、照射の前にさらに詳しく調べ、診断をつけてから治療を決めます。
見つかったものを組み合わせて、順番を組み立てます
問診、画像、拡大での観察がそろうと、ひとつの顔の中に、いくつかの種類のシミが重なっていることが分かってきます。治療法は、その組み合わせで決まります。
たとえば、年齢によるシミの周りに肝斑が広がっていれば、先に飲み薬と塗り薬で肝斑を落ち着かせ、そのあとで残ったシミに照射します。順番を逆にすると、取ったシミの周りがかえって濃くなることがあります。
肝斑は、年齢によるシミだけでなく、ADM(頬骨のあたりに出る、灰色がかった深いシミ)とも重なります。中国のADM患者1,268人を調べた研究では、約4人に1人に肝斑が重なっており、もともと肝斑のあった方の89.5%で、レーザー治療のあとに肝斑が濃くなっていました。レーザーが効くシミがあっても、隣に肝斑があれば、照射の計画は変わります。
当院では、カウンセリングの日には施術を行いません。画像と所見をもとに、どのシミから、どの順番で、何を使って治療するのかを整理し、一人ひとりの治療計画を組み立てるためです。
受診のときに、伝えていただきたいこと
診察の精度は、患者さんからうかがう情報でも変わります。受診の際は、次のことを思い出して、メモにしておいていただけると助かります。
- そのシミに気づいた時期と、大きさや色の変化
- 夏と冬で濃さが変わるかどうか
- 妊娠中・授乳中かどうか、ピルやホルモンの治療を受けているかどうか
- これまでに受けたシミの治療(他院のレーザーや光治療も)と、そのあとの経過
- いま使っている飲み薬、塗り薬、化粧品
また、次のような場合は、治療の相談よりも診断を優先します。早めにご相談ください。
- 数か月のうちに大きくなった、形や色が変わってきた
- 表面がざらつく、かさぶたがつく、出血する
- シミ治療の薬や化粧品を使い始めてから、色や症状が悪化している
見えている茶色の、その先まで確かめてから
シミ治療は、見えている茶色を消すことから始まるのではありません。その茶色がいつからあって、周りに何が隠れていて、拡大すると何が見えるのか。そこまで確かめて、はじめて「どの機械を、どの順番で」が決まります。
気になるシミがある方は、受診の前に、上のメモを一度まとめてみてください。それも、あなたのシミに合った治療を組み立てるための、大切な材料になります。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 服部浩明