
皮膚の光線治療
当院も含めて皮膚科では光線治療をよく行います。 「紫外線は肌に悪い」「日焼けは老化のもと」 普段からこんなふうに聞かされている紫外線が、実は皮膚の病気を治す力を持っているって、不思議に思いませんか? 実は、医療で使う紫外線は、太陽光に含まれる紫外線とは「質」が全く違うんです。 特定の波長だけを取り出し、病気の部分にピンポイントで当てることで、薬では治りにくかった皮膚の症状を改善させたり、ステロイド外用剤を減らせます。 今回から数回にわたって、この「光線治療(紫外線療法)」について、皮膚科専門医の立場からわかりやすく解説していきます。紫外線で病気が治る?その不思議なメカニズム
皮膚の病気の多くは「免疫の暴走」が原因
アトピー性皮膚炎、乾癬(かんせん)、白斑(はくはん)など、多くの慢性的な皮膚の病気は、体を守るはずの「免疫」が過剰に働いてしまうことが原因の一つです。 たとえば、アトピー性皮膚炎では、本来なら反応しなくてもいいものに対して免疫細胞が過剰に反応し、炎症を起こしてしまいます。乾癬では、皮膚の細胞が異常なスピードで増えてしまい、赤く盛り上がった発疹ができます。 これらは、免疫システムの中でも特に「T細胞」と呼ばれる細胞が暴走することで起きているんです。紫外線は「免疫の調整役」として働く
ここで光線治療の出番です。医療用の紫外線を皮膚に当てると、以下のような作用が起きます:- 暴走している免疫細胞を落ち着かせる:T細胞の活動を抑え、炎症物質(サイトカイン)の産生を減らします。
- 異常な細胞を自然に減らす:アポトーシスを促し、正常なターンオーバーを促進します。
- バランスを保つ細胞を増やす:「制御性T細胞」を増やし、免疫のバランスを整えます。
かゆみに直接効く!もう一つの重要な作用
光線治療のすごいところは、免疫だけでなく「かゆみ」そのものにも直接作用することです。 特に、308nmという波長の紫外線(エキシマライト)は、皮膚の表面にある「かゆみを伝える神経」の無駄な枝を減らす働きがあることがわかっています。 照射後、なんと数時間でかゆみが軽くなることもあるんです。 アトピー性皮膚炎の患者さんの多くが「夜中にかゆくて眠れない」という悩みを抱えています。光線治療を内服外用に追加して痒みのコントロールを行うこともよくあります。昔の光線治療と今の光線治療、何が違う?
かつての主流「PUVA療法」の問題点
実は光線治療の歴史は古く、1970年代から「PUVA(プーバ)療法」という方法が使われていました。これは、「ソラレン」という薬を飲んでから紫外線を当てる治療法でした。 効果はあったものの、以下のような問題がありました:- 薬による吐き気や頭痛
- 重度の日焼けや水ぶくれのリスク
- 治療後24時間は日光を避ける必要がある
- 長期的には皮膚がんのリスクが心配される
現在の主流「ナローバンドUVB」の登場
これらの問題を解決するために開発されたのが、「ナローバンドUVB」という新しい光線治療です。 「ナローバンド」とは「狭い幅」という意味で、311nm±2nmという、皮膚病に最も効果的で、かつ副作用が少ない波長だけを取り出して使います。 ナローバンドUVBの利点:- 薬を飲む必要がない
- 副作用が大幅に減少
- 治療後の日常生活の制限がほとんどない
- 皮膚がんのリスクが極めて低い
こんな症状でお悩みの方に光線治療が向いています
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- アトピー性皮膚炎 塗り薬だけでは改善しない慢性的な湿疹/強いかゆみで日常生活に支障がある/ステロイド外用薬を減らしたい
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- 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん) 赤く盛り上がった発疹が全身に広がっている/銀白色の鱗屑(りんせつ)が気になる/関節の痛みも伴う乾癬性関節炎
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- 尋常性白斑(じんじょうせいはくはん) 皮膚の一部が白く抜けてしまった/顔や手など、目立つ部分の白斑/塗り薬では改善が見られない
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- 掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう) 手のひらや足の裏に膿を持った水ぶくれが繰り返しできる/痛みやかゆみで日常生活に支障がある
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- 円形脱毛症 円形に髪が抜けてしまった/複数箇所に脱毛斑がある/他の治療で改善しない
光線治療が受けられない方・注意が必要な方
絶対的禁忌(受けられない)
- 皮膚がんの既往がある方
- 色素性乾皮症など、紫外線に対して異常に敏感な病気をお持ちの方
- 全身性エリテマトーデスなど、日光で悪化する病気をお持ちの方
- 妊娠中の方
相対的禁忌(注意が必要)
- 光線過敏を引き起こす薬を服用中の方(一部の湿布薬、抗生物質など)
- 免疫抑制剤を使用中の方
- てんかんの既往がある方(まれに誘発する可能性)
当院の光線治療について
当院では、最新の光線治療機器を導入し、患者さん一人ひとりの症状に合わせた治療を提供しています。全身型ナローバンドUVB
全身に症状が広がっている方のための、ブース型の治療機器です。立ったまま数分間、全身に均一に紫外線を照射できます。 局所型と異なり、広範囲の病変を一度に治療できるのでアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬など、全身に皮疹が多発するタイプの病気に効果的です。エキシマライト(局所型)
限られた部分の頑固な症状に対して、高出力の紫外線をピンポイントで照射する機器です。 従来の光線治療の数十倍の強さで照射できるため、より早い改善が期待できます。 円形脱毛症や尋常性白斑(局所型)の治療に頻繁に利用しています。まとめ:光線治療は「光の薬」
紫外線と聞くと「肌に悪い」というイメージが強いかもしれませんが、医療用の紫外線は「光の薬」として、多くの皮膚病の治療に役立っています。- 免疫の過剰な働きを整える
- かゆみを直接和らげる
- 副作用が少なく、安全性が高い
- 経済的負担が少ない
日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明