点鼻のアナフィラキシー治療薬「ネフィー」|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科 点鼻のアナフィラキシー治療薬「ネフィー」|服部皮膚科アレルギー科|岡山市北区清心町の皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科

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点鼻のアナフィラキシー治療薬「ネフィー」

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「エピペンを持っているけれど、正直、いざという時に本当に打てるか自信がない」

「子どもに持たせているけれど、中学生になってから持ち歩かなくなってしまった」

「もっと簡単に使えるものがあればいいのに、と思ったことがある」

こうした悩みはアナフィラキシーの子供を持つ親御さん共通の悩みです。

前回お話ししたように、アナフィラキシーで命を守るためにアドレナリンは必須です。

そしてエピペンはそのアドレナリンを緊急時に自分で投与できる非常に優れた薬です。

しかし、「針を刺す」のは怖いので、いざという時に使えるかどうか不安に思われる方が多いのも事実です。

2026年2月、この壁を取り払う新しいアドレナリン製剤が日本で発売されました。

アナフィラキシー対策に新しい選択肢

今回は、鼻にスプレーするだけで投与できるアドレナリン製剤「ネフィー点鼻液」についてお話しします。

ネフィーとは何か

ネフィーは、アナフィラキシーが起きた時に、鼻の中にスプレーするだけでアドレナリンを投与できる薬です。

針も注射器も使いません。

片方の鼻の穴にノズルを入れて、プランジャーを押し込む── たったそれだけで投与が完了します。

「点鼻薬」と聞くと花粉症の薬を思い浮かべるかもしれませんが、ネフィーは花粉症の薬ではありません。

中に入っているのはアドレナリンであり、目的はアナフィラキシーの緊急治療です。

エピペンと同じ薬を、針を使わずに届ける── それがネフィーの本質です。

ネフィーは2024年8月にアメリカで世界初の承認を受け、日本では2025年9月に承認、2026年2月12日に発売されました。

エピペンとどう違うのか

エピペンとネフィーは、どちらも「アナフィラキシーの時にアドレナリンを投与する」ための薬であり、目的は同じです。

違うのは、届け方とそれに伴ういくつかの特徴です。

ここが違う。エピペンとネフィー

①針を刺さなくていい

エピペンは太ももに針を刺して筋肉の中にアドレナリンを届けます。

一方、ネフィーは鼻の粘膜からアドレナリンを吸収させます。

「自分の体に針を刺す」「子どもの太ももに針を刺す」

というハードルがなくなることは、いざという時の使いやすさに直結します。

②持ち歩きやすい

エピペンは注射器としての構造を持っているため、ある程度の大きさがあります。

ネフィーは非常にコンパクトで軽く、ポケットやポーチに入れてもかさばりません。

「目立つから持ちたくない」というハードルがぐっと下がります。

③保管しやすい

ネフィーの有効期限は24か月(2年)で、エピペンの12〜18か月と比べて長めです。

また、温度変化にも比較的強く、一時的に高温(50℃まで)にさらされても使用可能とされています。

万一凍結してしまった場合も、解凍すれば使えます。

夏の車内やスキー場など、温度が極端になりやすい場面でも安心感があります。

効果はエピペンと同じなのか

「鼻にスプレーするだけで、本当に注射と同じように効くのだろうか」

これは誰もが気になるところだと思います。

結論から言うと、ネフィーはエピペンと同等の効果があることが臨床試験で確認されています。

鼻からでも効果は同等

ネフィーの承認にあたっては、健康な成人175名を対象にした複数の臨床試験が行われました。

アナフィラキシーの患者さんで直接比較する試験は倫理的に行えないため、投与後に血液中のアドレナリン濃度がどのくらい上がるか、血圧や心拍数にどう影響するかという指標で評価されています。

その結果、ネフィー2mgを鼻にスプレーした場合と、アドレナリン0.3mgを筋肉内注射した場合とで、血中のアドレナリン濃度や心血管系への作用は同等であることが示されました。

日本人を対象とした試験でも、有効性と安全性が確認されています。

つまり、「鼻から入れる」という方法が違うだけで、体の中で起きることはエピペンと変わらないということです。

鼻づまりがあっても大丈夫?

「アレルギーのある人は鼻炎も多い。鼻がつまっていたら効かないのでは?」

これも自然な疑問です。

ネフィーのアドレナリンは鼻の粘膜から吸収されますが、鼻腔全体を通過する必要はありません。

片方の鼻孔にスプレーすれば、粘膜に接触した部分から速やかに吸収が始まります。

臨床試験でも、鼻炎の有無によって効果に大きな差は認められていません。

ただし、鼻にポリープがある方や、鼻中隔弯曲症の方、鼻の手術を受けたことがある方は、吸収に影響が出る可能性があります。

こうした場合は、エピペンの方が適している場合もありますので、処方の際に主治医と相談してください。

使い方はシンプル

ネフィーの使い方はとてもシンプルです。

パックから取り出し、ノズルを片方の鼻の穴に入れ、プランジャーを最後まで押し込む── これで完了です。

ネフィーの正しい使い方

ただし、絶対に覚えておかなければならないポイントがあります。

①事前に空打ち(試し打ち)をしない

花粉症の点鼻薬には「使う前に数回空打ちしてください」と書いてあるものがありますが、ネフィーは1回分の薬しか入っていない使い切りの製剤です。

空打ちをしてしまうと、肝心な時に薬が出なくなります。

②投与後はすぐに救急車を呼ぶ

ネフィーを使ったら、すぐに救急車を呼んでください。

ネフィーもエピペンも、あくまで医療機関に到着するまでの応急処置です。

投与したから安心、ではありません。

もし5分以上たっても症状が改善しない、あるいは悪化する場合は、新しいネフィーを使って同じ鼻孔にもう一度投与することができます。そのためにも、できれば2本携帯しておくことが望ましいとされています。

処方を受けるには

ネフィーは、どの医療機関でもすぐに処方してもらえるわけではありません。

ネフィーを処方できるのは、事前に登録を済ませた医師に限られています。

医師は専用サイトで登録を行い、処方に関する動画の視聴と確認試験を受ける必要があります。

処方の際には、使い方の説明と練習用の見本(デモ機)を使った確認が行われます。

「動画で見た」「説明書を読んだ」だけでなく、実際に手を動かして練習しておくことが大切です。

また、ネフィーは処方箋を出してすぐにその場で受け取れるとは限りません。

薬局への納品は医師の登録確認を経てから行われるため、少しお時間をいただく場合があります。

当院でもネフィーの処方についてご相談いただけます。ご希望の方は、受診時にお申し出ください。

費用について

ネフィーは保険適用の薬です。

アナフィラキシーの既往がある方や、発症の危険性が高いと医師が判断した方が対象になります。

薬価は1mg製剤が約23,000円、2mg製剤が約25,000円ですが、保険適用の場合は自己負担は1〜3割になります。

エピペンの有効期限が12〜18か月であるのに対し、ネフィーは24か月使えるため、年間の薬剤費としてはエピペンと同程度か、やや抑えられる可能性があります。

学校ではどうなるの?

お子さんにネフィーを持たせたい保護者の方にとって、学校での扱いは気になるところだと思います。

エピペンについては、すでに文部科学省のガイドラインにより、教職員がお子さんに代わって投与することが認められています。

一方、ネフィーについては、現時点(2026年3月)では、教職員や保育士が代行投与できるという公的な通知はまだ出ていません。関係省庁での検討が進められている段階です。

現段階では「エピペンと同じ扱いになるかどうか」は、今後の行政の対応を待つ必要があります。

教育現場向けのマニュアルや対応ページも準備中とされています。

学校にネフィーを持たせる場合は、主治医に学校生活管理指導表に具体的な使用方法や使用のタイミングを記載してもらい、学校側と密に連携をとることが現時点では最も大切です。

「自分に合った薬を選ぶ」

ここまでネフィーの特徴をお話ししてきましたがネフィーが出たからエピペンが不要になるわけではありません。

自分にあった命を守る選択肢を

エピペンは長年にわたって多くの命を救ってきた実績のある薬であり、筋肉注射による確実な投与という点では揺るぎない信頼があります。

鼻に構造的な問題がある方や、注射に抵抗がない方にとっては、引き続きエピペンが最適な選択かもしれません。

大切なのは、「どちらが正解か」ではなく、「自分やお子さんが、いざという時に本当に使えるのはどちらか」という視点です。

針への恐怖で投与をためらってしまいそうなら、ネフィーの方が合っているかもしれません。

携帯のしにくさが原因で持ち歩かなくなっているなら、コンパクトなネフィーが解決策になるかもしれません。

逆に、注射のほうが確実に使えると感じるなら、エピペンを選ぶことに何の問題もありません。

主治医と相談しながら、ご自身やお子さんにとって「確実に使える方」を選んでいただければと思います。

大切なのは「持っていること」と「ためらわないこと」

アナフィラキシーへの備えで最も大切なのは、エピペンであれネフィーであれ、「常に携帯していること」と「ためらわずに使うこと」です。

家に置いたままの薬は、いざという時に命を守れません。 迷って使えなかった薬も、同じです。

ネフィーは、針への恐怖を取り除き、携帯のハードルを下げてくれる新しい選択肢です。

「使えるかどうか不安だった」方にとって、この薬が安心の一歩になることを願っています。

エピペンやネフィーの処方、アナフィラキシーへの備え方について、ご不安やご質問がありましたら、お気軽に当院にご相談ください。

日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明