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虫刺されの色素沈着やしこり

虫刺されの跡が残る理由と毛虫皮膚炎

「去年の夏に蚊に刺された跡が、まだ茶色く残っている」

「足首にかゆいしこりができて、もう半年以上治らない」

前回、虫刺されで最も気をつけたいのは「掻きこわし」だとお話ししました。今回は、その先の話——掻き続けた結果、皮膚に何が起きるかについてお伝えします。

後半では、「虫に触った覚えがないのに発疹が出る」という、毛虫皮膚炎についてもお話しします。

虫刺されの跡が茶色く残る——色素沈着はなぜ起きる?

虫刺されの赤みが引いた後に、茶色い跡がいつまでも残ってしまうことがあります。これは「炎症後色素沈着」と呼ばれる現象です。

仕組みはこうです。虫刺されによって皮膚に炎症が起きると、その刺激でメラノサイト(色素を作る細胞)が活性化し、メラニンが過剰に作られます。炎症が治まった後も、このメラニンが皮膚にしばらく残るため、茶色い跡として見えるのです。

跡が残る仕組み

ここで大切なポイントがあります。掻けば掻くほど、炎症は長く強くなり、色素沈着も濃く残りやすくなるということです。

かくほど跡は残りやすい

蚊に刺されてすぐにかゆみを抑えて炎症を鎮めてしまえば、跡はほとんど残りません。ところが、何日も掻き続けて炎症を長引かせてしまうと、メラニンが深いところまで沈着し、数ヶ月から場合によっては1年以上も茶色い跡が消えないことがあります。

特に日本人を含むアジア人の肌は、炎症後の色素沈着が残りやすい傾向があります。お子さんの足や腕に去年の虫刺されの跡がまだ残っている、という場合は、炎症が長引いた証拠です。

「虫刺されの跡なんて、そのうち消えるだろう」と思いがちですが、早めにかゆみと炎症を抑えることが、きれいに治すための一番の近道です。

足首の硬いしこりが何年も消えない——結節性痒疹という病気

虫刺されを繰り返し掻き続けた結果、さらにやっかいな状態に進んでしまうことがあります。それが「結節性痒疹(けっせつせいようしん)」です。

結節性痒疹は、皮膚に小豆くらいの硬いしこり(結節)ができて、激しいかゆみを伴う病気です。足首やすねに多く見られます。

なぜこうなるのか。掻き続けることで皮膚の炎症が慢性化すると、皮膚が自分を守ろうとしてどんどん厚く、硬くなっていきます。手荒れの回でもお話しした「苔癬化」と同じ仕組みです。さらに、かゆみを伝える神経そのものが過敏になり、炎症が治まった後も脳に「かゆい」という信号を送り続けるようになります。

硬いしこりになる理由

こうなると、もはや虫刺されの原因がなくなっても、かゆみと掻く行為が自己完結的に続いてしまうのです。かゆいから掻く、掻くから硬くなる、硬いところはさらにかゆい——この悪循環が何年も続いてしまうことがあります。

かゆみの悪循環

当院でも「何年も前の虫刺されが治らない」と受診される方が時々おられますが、その多くがこの結節性痒疹です。硬くなった結節は通常の虫刺され用の市販薬ではまず治りません。皮膚科で強めのステロイド外用薬を使ったり、かゆみを抑える内服薬を組み合わせたりして、じっくり治療していく必要があります。

つまり、虫刺されを「たかが虫刺され」と放っておいて掻き続けると、色素沈着だけでなく、何年も苦しむ病気にまで発展する可能性があるのです。前回もお伝えしましたが、虫刺されは初期のうちにかゆみと炎症を抑えてしまうことが本当に大切です。

触った覚えがないのに発疹が出る——毛虫皮膚炎

ここからは少し話題を変えて、「虫に刺された覚えがない」のに皮膚炎が起きるケースについてお話しします。

「庭の木の手入れをした翌日に、腕一面にかゆいブツブツが出た」

「洗濯物を取り込んだだけなのに、首や腕が赤くなった」

こうした症状で受診される方が、初夏から秋にかけて増えます。多くの場合、原因はチャドクガやイラガといった毛虫です。

触っていなくても発疹

チャドクガ——「見えない毒針」が飛んでくる

毛虫皮膚炎の中でも特に多いのが、チャドクガによるものです。

チャドクガの幼虫(毛虫)は、ツバキやサザンカといった庭木によくつきます。この毛虫が厄介なのは、体の表面に「毒針毛(どくしんもう)」と呼ばれる、肉眼ではほとんど見えないほど微細な毒のある毛を大量に持っていることです。

毒針毛の長さはわずか0.1mm程度。風に乗って飛散するため、毛虫に直接触れなくても、木のそばを通っただけで、あるいは毒針毛がついた洗濯物を取り込んだだけで皮膚炎が起きることがあります。

チャドクガに注意

症状は、小さな赤いブツブツが広範囲に出て、強烈なかゆみを伴います。蚊に刺されたときのように腫れるのではなく、細かい発疹がびっしりと広がるのが特徴です。しかも、かゆくて掻くと毒針毛が手について、触れた別の場所にも発疹が広がっていきます。

イラガ——触れた瞬間の「電撃的な痛み」

もう一つ気をつけたいのがイラガの幼虫です。サクラやカエデ、柿の木などにつくことが多く、鮮やかな緑色をしています。

イラガはチャドクガとは反応の仕方が違います。毛に触れた瞬間に電気が走るようなピリッとした強い痛みが生じます。その後、赤く腫れてかゆみが出ますが、チャドクガに比べると範囲は狭く、通常は1〜2日程度で症状が落ち着きます。

つまり、チャドクガは「気づかないうちに広範囲にかゆい発疹が出る」タイプ、イラガは「触れた瞬間に痛い」タイプ、と覚えておくとわかりやすいでしょう。

チャドクガとイラガの違い

毛虫皮膚炎になってしまったら

毛虫皮膚炎が起きたとき、まず大切なのは毒針毛を広げないことです。

まず毒針毛を広げない

チャドクガの場合は、掻いたりこすったりすると皮膚に刺さった毒針毛が周囲に広がり、症状がどんどん拡大します。まずは粘着テープを患部にそっと貼って剥がし、毒針毛を取り除いてください。その後、流水でやさしく洗い流します。

着ていた衣類にも毒針毛が付着している可能性がありますので、他の洗濯物とは分けて、複数回洗濯してください。

症状が軽い場合は市販の虫刺され用の薬で対応できることもありますが、広範囲に発疹が出ている場合やかゆみが強い場合は、皮膚科でステロイドの塗り薬や抗アレルギーの飲み薬で治療します。

毛虫に近づかないための予防

毛虫皮膚炎は「知っていれば避けられる」トラブルです。

チャドクガはツバキ・サザンカに、イラガはサクラ・カエデ・柿などにつきやすいことを覚えておいてください。庭木の手入れをするときは、長袖・手袋を着用し、作業後は衣類を払ってから室内に入るようにしましょう。

毛虫がついた枝を剪定するとき、勢いよく切ると毒針毛が舞い散ることがありますので、慎重に作業してください。自分での駆除が難しい場合は専門業者に依頼するのも一つの方法です。

洗濯物は、毛虫の発生時期(5〜6月と8〜9月に多い)には外干しを控えるか、取り込む前に払ってから室内に入れるとよいでしょう。

まとめ——虫刺されは「長引かせない」が鉄則

今回お話しした内容をまとめると、虫刺されで最も避けたいのは「長引かせること」です。

掻き続ければ色素沈着が残り、さらに進むと結節性痒疹という何年も治らない病気に発展することがあります。毛虫皮膚炎は直接触れなくても起きる厄介なトラブルですが、毒針毛を広げないことと、早めに治療することで重症化を防げます。

虫刺されは長引かせない

いずれも共通しているのは、初期の段階でかゆみと炎症を抑えてしまうことの大切さです。市販薬で2〜3日様子を見ても改善しない場合、あるいは症状が広がっている場合は、早めに皮膚科を受診してください。

次回は、アウトドアシーズンに特に気をつけたいマダニとハチについてお話しします。

日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明