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マダニやハチ刺され

マダニとハチに注意

「草むらで遊んだ後、子どもの太ももに黒い粒がくっついていて取れない」

「キャンプ中にハチに刺されて、腕が腫れてきた」

これからの季節、キャンプやハイキング、川遊び、庭の草刈りなど、屋外で過ごす時間が増えます。そんな時に気をつけたいのが、マダニとハチです。

蚊や毛虫と違い、この二つは命に関わる事態につながることがあります。今回は、知っておくだけで対応が変わるポイントをお話しします。

マダニは「普通のダニ」とはまったく違います

マダニはべつもの

「ダニ」と聞くと、布団やカーペットにいる小さな虫を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、マダニはそれとはまったく別の生き物です。

家の中にいるダニ(ツメダニやイエダニ)は肉眼ではほぼ見えない大きさですが、マダニは吸血前でも2〜3mm程度あり、血を吸うと小豆くらいの大きさにまで膨らみます。

マダニが厄介なのは、皮膚にしっかりと口器を突き刺して、数日から2週間にもわたって吸血し続けるという点です。しかも、刺されても痛みやかゆみをほとんど感じないため、気づかないうちに吸血されていることが多いのです。

お子さんが草むらや山で遊んだ後に、体に黒っぽい粒がくっついている——それがマダニかもしれません。

絶対にやってはいけないこと——「自分で引き抜く」

見つけても引っ張らない

マダニが皮膚に吸着しているのを見つけたとき、つい指やピンセットで引き抜きたくなりますが、これは絶対に避けてください。

マダニは口器を皮膚の中に深く差し込んでいるため、無理に引き抜くと口の部分がちぎれて皮膚の中に残ってしまいます。残った口器は異物として炎症を起こし、硬いしこり(異物肉芽腫)になることがあります。

マダニを見つけたら、そのままの状態で皮膚科を受診してください。皮膚科では専用の器具を使って、口器ごとマダニを安全に除去します。

マダニが怖い本当の理由——感染症を運ぶ

本当に怖いのは感染症

マダニに刺されること自体の痛みや腫れは軽いことが多いのですが、本当に怖いのはマダニが媒介する感染症です。

中でも近年、特に注意が必要とされているのが重症熱性血小板減少症候群(SFTS)です。

SFTSはマダニが持つウイルスによって起きる感染症で、刺されてから6〜14日の潜伏期間の後、高熱、倦怠感、吐き気、下痢、腹痛などの症状が現れます。致命率は約10〜30%とされており、決して軽い病気ではありません。

2025年は全国で191名の感染が報告され、過去最多となりました。以前は西日本が中心でしたが、2025年には関東や北海道でも感染例が報告されており、全国的に注意が必要な状況になっています。

SFTSのほかにも、マダニは日本紅斑熱やライム病といった感染症を媒介します。いずれも早期の治療が大切ですので、マダニに刺された後に発熱や体調不良が出た場合は、速やかに医療機関を受診し、「マダニに刺された可能性がある」と伝えてください。

ペットも注意——犬や猫から感染することも

SFTSは、マダニからだけでなく、SFTSウイルスに感染した犬や猫の体液に触れることでも感染する可能性があります。

特に猫は重症化しやすく、感染した猫の致死率は約6割という報告があります。

散歩や外出から帰った犬や猫の体にマダニがついていないか、チェックする習慣をつけておくと安心です。ペットの体調がおかしいと感じたら、動物病院に相談してください。

マダニから身を守るための予防

マダニ予防の基本

マダニの対策は「肌を出さないこと」が基本です。

草むらやササ藪、河川敷の草地に入るときは、長袖・長ズボンを着用し、ズボンの裾は靴下の中に入れてください。明るい色の服を選ぶと、マダニが衣類についたときに見つけやすくなります。

虫よけ剤(ディート製剤やイカリジン製剤)をマダニが付着しやすい足元や腕に塗っておくことも有効です。

帰宅後は入浴して全身をよく確認してください。マダニは脇腹、太もも、足の付け根など、皮膚がやわらかい場所を好みます。お子さんの場合は、頭皮や耳の後ろもチェックしてあげてください。

衣類にマダニが付着していることもあるので、帰宅したら着替えて、脱いだ衣類は早めに洗濯するのがよいでしょう。

ハチに刺されたら——最初の30分が勝負

ハチ刺され最初の30分に注意

もう一つ、屋外で注意が必要なのがハチです。

ハチに刺されたとき、初めてであれば激しい痛みと赤い腫れが出ますが、通常は数日で治まります。

問題は2回目以降です。一度ハチに刺されたことがある人は、ハチの毒に対するアレルギーが成立している可能性があり、次に刺されたときにアナフィラキシーを起こすことがあります。

以前のブログシリーズ「アナフィラキシーとは」でも詳しくお話ししましたが、アナフィラキシーは全身のじんましん、呼吸困難、血圧低下といった症状が短時間で一気に進行する重篤なアレルギー反応です。

ハチに刺された後、以下のような症状が出たら、ためらわずに救急車を呼んでください。

刺された場所だけでなく全身にじんましんが広がっている。息がゼーゼーする、のどが詰まる感じがする。気分が悪い、ふらつく、顔色が悪い。

刺されたときの応急処置

刺された直後の対応

ハチに刺された直後は、まず安全な場所に移動してください。ハチは警報フェロモンを出して仲間を呼ぶことがあるため、巣の近くにいる場合はその場から離れることが最優先です。

安全な場所で落ち着いたら、刺された部分を流水で洗い、保冷剤や冷たいタオルで冷やしてください。ミツバチの場合は毒針が皮膚に残っていることがありますので、毒嚢を圧迫しないように注意しながら、爪やカードの端などで横に払うようにして取り除きます。

ここで大切なのは、症状が軽そうに見えてもしばらく安静にして様子を見ることです。アナフィラキシーの症状は刺されてから数分〜30分以内に急速に進行することがあります。

特に過去にハチに刺されたことがある方は、エピペンやネフィー点鼻液といったアドレナリン製剤を処方されている場合があります。持っている方は、すぐに使える場所に常備しておいてください。

ハチに刺されないための心がけ

ハチは基本的に、こちらから刺激しなければ攻撃してきません。ハチが近づいてきても、手で払ったり大きな動きをしたりせず、静かにゆっくりとその場を離れてください。

黒い服装はハチを刺激しやすいとされていますので、屋外活動の際は明るい色の服を選ぶとよいでしょう。甘い匂いのする飲み物や食べ物にもハチは寄ってきますので、野外での飲食時は注意してください。

ハチの巣を見つけたら、絶対に近づかないでください。特にスズメバチは巣の近くでは攻撃性が非常に高くなります。自分で駆除しようとせず、専門業者や自治体に相談してください。

シリーズのまとめ——虫刺されは「知識」で守れる

3回にわたって虫刺されについてお話ししてきました。

第1回では、お子さんの虫刺されは大人より腫れやすいこと、掻きこわしからとびひに発展するリスクがあることをお伝えしました。第2回では、虫刺されを長引かせると色素沈着や結節性痒疹といった「後遺症」につながること、そして毛虫皮膚炎は直接触れなくても起きることをお話ししました。

そして今回は、マダニとハチという、命に関わる可能性のある虫についてお伝えしました。

虫刺されは身近なトラブルですが、「知っているかどうか」で対応が大きく変わります。マダニは自分で引き抜かない、ハチに刺されたら全身症状に注意する——こうした知識を持っておくだけで、いざという時に慌てずに済みます。

虫刺されで気になることがあれば、「たかが虫刺され」と思わずに、お気軽に皮膚科にご相談ください。

日本皮膚科学会皮膚科専門医 服部浩明