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「ずっとあせもの薬を塗っているのに、なぜか赤みがどんどん強くなってきました」
「子どもの首に塗り続けていたら、黄色いかさぶたのようなものが出てきて……」
夏の診察室では、こうしたお話を聞くことが少なくありません。
よかれと思って続けていた市販薬が、実は今の皮膚の状態に合っておらず、症状をさらに悪化させていた。そして掻き壊した傷から細菌が入り、とびひにまで進んでしまった。
これは、決して珍しいことではありません。
今回は、市販の「あせも薬」が汗かぶれには合わないことがある理由と、その先で起こる悪循環についてお話しします。
「あせもの薬」は、何を目的に作られているのか
市販のあせも用製品は、汗疹が起きている環境、つまり「蒸れて湿った皮膚」を改善することを目的に作られています。
配合されている成分には、たとえば次のようなものがあります。
- 患部を乾燥させる成分
- 湿気を吸収するパウダー
- メントールやカンフルなどの清涼成分
- かゆみ止めの成分
汗疹は、汗管が詰まって起こる病変です。蒸れを減らし、患部を涼しく乾いた状態に保つことは、汗疹に対しては理にかなった方向のケアといえます。
問題は、これを汗かぶれに使ったときです。
汗疹に合う薬が、汗かぶれには刺激になります
汗かぶれは、乾燥や湿疹によってバリア機能がすでに低下した皮膚に、汗や蒸れ、摩擦が加わって起きている湿疹です。
この状態の皮膚に、乾燥させる方向の薬を塗るとどうなるでしょうか。
角層の水分がさらに失われ、皮膚は硬くなり、細かい亀裂が入りやすくなります。バリア機能の低下がいっそう進み、汗がしみる感覚も強くなります。
パウダー成分は、湿り気のある部分やしわの間で固まり、こすれの原因になることがあります。
メントールやカンフルの清涼感は、健康な皮膚では心地よく感じられても、傷んだ皮膚ではしみる刺激になります。
さらに、かゆみ止めの成分や添加物そのものが、新たなかぶれ(接触皮膚炎)を起こすこともあります。外用の抗ヒスタミン成分やカンフルによる接触皮膚炎は、以前から報告されています。
つまり、汗疹に合う薬が、汗かぶれには刺激になり得るということです。
「市販薬だから刺激が少ない」
「かゆみ止めだから湿疹にも安全」
そう考えて使い続けてしまうことが、実は問題の始まりになります。
もちろん、すべての市販薬が皮膚を傷めるという意味ではありません。汗疹なのか、すでに湿疹化した汗かぶれなのかを区別せずに、一律に使ってしまうことが問題なのです。
「将棋倒し」のように進む悪循環
合わない薬を使い続けたとき、皮膚では次のようなことが順番に起こっていきます。
汗が長く残って角層がふやける。ふやけた皮膚に衣服のこすれが加わり、角層が傷む。汗がしみて赤みとかゆみが増す。「あせもだろう」と考えて、乾燥させる方向の薬を塗る。刺激が加わって炎症がさらに広がる。かゆみが強くなり、こらえきれずに掻いてしまう。掻き壊した傷から、細菌が入り込む。
一度この連鎖が始まると、途中で薬を変えただけでは簡単には止まりません。すでに倒れてしまった駒は、元には戻らないのです。
そして、この連鎖の最後に起こるのがとびひです。
とびひは、あせもの薬では治りません
とびひ(伝染性膿痂疹)は、黄色ブドウ球菌などの細菌が、傷ついた皮膚から感染して起こる病気です。
日本皮膚科学会の解説でも、汗疹、虫刺され、湿疹を掻き壊した部分に細菌が二次感染して起こると説明されています。乳幼児や小学生に多く、初夏から真夏にかけて増えてきます。
とびひになると、水ぶくれや、乾いた黄色いかさぶたが現れます。掻いた手で触れた別の場所へ次々と病変が移っていくため、「飛び火」の名前がついています。
ここで重要なのは、とびひは湿疹ではなく細菌感染症だということです。
あせもの薬をいくら塗っても治りません。それどころか、塗り続けている間に感染が広がっていきます。
当院でも毎年この時期になると、「あせもが治らない」「薬を塗っているのに、だんだん広がってきた」と受診されるお子さんの中に、すでにとびひへ移行しているケースがあります。市販薬で様子を見ておられる数日の間に、病変がずいぶん広がってしまっていることも少なくありません。
見た目だけで区別するのは、医師でも簡単ではありません
汗疹、汗かぶれ、とびひ、カンジダなどの真菌感染症、接触皮膚炎。
これらはいずれも、蒸れやすい場所やこすれる場所に赤みやブツブツとして現れます。見た目が重なる部分が多く、診察でも慎重な判断が必要です。
しかも、汗かぶれの中に汗疹が混じっていたり、湿疹の一部にとびひが起こり始めていたりと、複数の状態が同時に存在することがあります。
「あせもだと思っていたら、汗かぶれに細菌感染が重なっていた」というケースは、実際によく経験します。
皮膚科では、症状の分布や皮疹の性状、必要に応じて細菌の検査などを行い、今どの状態にあるのかを判断します。診断が変われば、使うべき薬もまったく変わります。
皮膚科ではどのような治療をするのか
汗かぶれの治療で中心になるのは、炎症を抑えるための塗り薬です。
「ステロイドは怖い」「塗った時だけ良くなって、やめるとまた戻るから意味がない」と思っておられる方は少なくありません。
しかし、ステロイドの本当の役割は、湿疹を根本から消すことではありません。
バリア機能が壊れて炎症が起きている皮膚は、保湿剤ですら刺激になることがあります。つまり、その状態では「スキンケアそのものが危険」になっています。
ステロイドの役割は、この炎症を鎮めて、洗浄や保湿といったセルフケアを安全に行える状態まで皮膚を戻すことです。ケアのスタートラインに立たせる薬、と考えていただくとわかりやすいと思います。
炎症が治まったら、第2回でお話ししたセルフケア、つまり汗を残さないことと保湿でバリアを補うことが、再発を防ぐ柱になります。
かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬の内服を併用して、掻いてしまう連鎖を早めに断ち切ることもあります。
一方、とびひが起きている場合は、必要になるのは抗菌薬です。病変が限られていれば塗り薬で対応できますが、範囲が広がっている場合や数が多い場合には、内服の抗菌薬を使います。
内服薬は塗り薬と違い、離れた場所の病変にも同時に届きます。広がってしまったとびひでは、塗り薬だけで追いかけるよりもはるかに早く治まります。
「市販薬を何週間も塗り続けていたのに、受診したら数日で落ち着いた」ということが起こるのは、このためです。
こんな症状が出てきたら、市販薬を足さずに受診してください
薬を続けていても良くならない場合はもちろん、次のような変化が出てきたときは、市販薬を追加せずに皮膚科を受診してください。
- 薬を塗っているのに、赤みや腫れがかえって強くなってきた
- 汗をかくとしみる、ヒリヒリする感覚が続いている
- ジュクジュクした分泌物が出て、周囲に広がってきた
- 水ぶくれが増えてきた
- 黄色いかさぶたができてきた
- 離れた場所にも、同じような発疹が出てきた
とくに後半の症状は、とびひへ移行している可能性があります。
とびひは人にうつる感染症ですので、保育園や学校、プールについて一時的に制限が必要になることもあります。お子さん自身のためにも、周囲への感染を防ぐ意味でも、早めに診断を受けていただくことが大切です。
3回のまとめとして
汗疹は、汗の通り道が詰まって皮膚の中に汗が漏れることで起こります。汗かぶれは、バリア機能が低下した皮膚に汗や蒸れ、摩擦が加わって起こる湿疹です。
この二つは仕組みが違うため、ケアの方向も、使うべき薬も異なります。
大切なのは、汗をかかないようにすることではなく、かいた汗を皮膚に長く残さないこと。そして、弱ったバリア機能を整えることです。
「汗をかいてできた発疹だから、あせもだろう」と考えて市販薬を使い続けているうちに、かえって治りにくい状態になってしまうことがあります。
数日使っても良くならないとき、しみる感覚が続くとき、症状が広がってきたときは、自己判断で薬を重ねずに、一度皮膚科にご相談ください。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
服部浩明