頬骨のあたりに、左右同じような茶色が広がっている。鏡を見ながら「これは肝斑かもしれない」と調べている方は、少なくありません。
肝斑には、たしかに典型的な見え方があります。両頬に左右対称に出やすく、点ではなく面のように広がり、紫外線の強い時期に濃くなる。ここまでは、鏡の前でも確認できます。
ただ、その典型だけでは診断できません。 左右対称でも肝斑ではないことがありますし、肝斑の上に別の種類のシミが重なっていることもあります。そして、シミの種類を取り違えたまま治療を始めると、かえって色が濃くなることがあります。
今回は、鏡の前で確認できる「肝斑らしさ」と、見た目だけでは判断できない部分を分けてお話しします。シミ全般の診断については、以前の記事も合わせてご覧ください。
目次
「肝斑かも」と思ったら、まず見る3つのポイント
肝斑は、主に両頬に左右対称に出る後天性の色素異常です。日本の美容医療診療指針では、紫外線と女性ホルモンが主な悪化因子とされ、濃くなったり薄くなったりを繰り返すと説明されています。この性質から、見分ける手がかりが3つ出てきます。
ひとつめは場所と左右差です。頬骨のあたりを中心に、両側にほぼ同じ形で広がります。額や上くちびるのまわりに出ることもあります。
ふたつめは形です。普通のシミ(老人性色素斑)は、ひとつひとつが独立した斑として数えられます。肝斑は斑というより、茶色い色むらが面として広がり、輪郭は不規則です。ただし、輪郭がぼんやりしているかどうかは、決め手にしないでください。診療指針は、普通のシミの特徴としても「境界が不鮮明」と記しています。
みっつめは季節と経過です。肝斑は紫外線で悪化し、日差しの強い時期に濃くなりやすい性質があります。妊娠やホルモンを含む薬をきっかけに、目立ってくることもあります。ただ、夏に濃く冬に薄くなるのは、そばかすも同じです。
この3つは、肝斑を疑うきっかけにはなります。しかし、肝斑と決める根拠にはなりません。
左右対称なら肝斑、とは言い切れません
左右対称という手がかりには、落とし穴があります。後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)です。
ADMも頬骨のあたりに左右対称に出るため、見た目だけでは肝斑と区別しにくいことがあります。
重要なのは、治療方針が大きく異なることです。肝斑は遮光と、塗り薬や内服薬が土台になります。ADMは、それらだけでは改善しにくく、レーザーが必要になります。診療指針も、肝斑とADMを正しく見分けることが最も重要だと述べています。
複数のシミが重なっていることも、珍しくありません
見分けをさらに難しくするのが、重なりです。診療指針は、シミには種類が複数あり「これらが混在することも多い」と記しています。肝斑についても、老人性色素斑などとの合併があると明記されています。
日本の大学病院の報告では、顔の老人性色素斑にレーザー治療を受けた人のうち、約4割に肝斑が合併していました。一般の方の割合ではありませんが、見た目には1種類のシミに見えても、実際には重なっていることがある、という裏づけにはなります。
たとえるなら、淡い色むらの上に、スタンプがいくつか押されているような状態です。スタンプだけを取ろうとしてレーザーを当てると、その刺激で下の色むらが濃くなることがあります。重なっている場合は、先に肝斑を落ち着かせてから、残った普通のシミを治療するのが基本です。順序を逆にすると、取ったつもりのシミの周りが濃くなります。
この見え方なら、肝斑と決めつけないでください
次のような場合は、肝斑以外の病変も考える必要があります。
- 片側だけに出ている
- ひとつのシミだけが、数か月のうちに大きくなってきた
- 表面がざらつく、盛り上がっている
- 形や色の混ざり方が不規則になってきた
顔には、シミに見える皮膚がんの初期もあります。茶色の広がりを一律に肝斑と思い込むと、必要な診断が遅れます。
診察では「見た目」以外に何を見ているのか
診察室でも、頬を指さしながら「これは肝斑ですか」と尋ねられることがよくあります。肝斑の診断は、基本的に「見て、聞いて」行う臨床診断ですが、当院では見た目だけで決めることはしません。
まず、赤み、茶色の色素、自然光の3種類の光で顔を撮影し、肉眼では見えにくい色素の分布や左右差を確認します。次に、ダーモスコピーという拡大装置で、色素の並び方を観察します。そして、妊娠や飲み薬、日焼け止めの習慣、以前に受けたレーザーや施術とその後の経過を伺います。画像、拡大、問診。この3つを合わせて、はじめて判断がつきます。
それでも迷う場合は、すぐに結論を出しません。診療指針も、鑑別が難しいときは治療への反応を注意深く見ながら進めること、必要なら組織検査を選択肢にすることを勧めています。
診断せずに治療を始めると、何が起こるのか
肝斑だと決めて、美白化粧品や飲み薬を長く続けたものの、実はADMで変化がなかった。シミだと決めてシミ取りレーザーを受けたところ、肝斑が濃くなった。どちらも、診断の前に治療を選んだことで起きます。
肝斑向けの飲み薬(トラネキサム酸)は、血栓症の既往がある方や、エストロゲンを含むピルを使っている方では、原則として避けます。使えるかどうかは、医師が個別に判断します。肝斑と決めてよいかどうかだけでなく、その薬を使ってよい人かどうかの確認も、診断と同じ場面で行います。
治療を受けるかは、診断のあとで決めて大丈夫です
頬に左右対称の茶色い広がりがあれば、治療法を選ぶ前に、診断を受けることをおすすめします。
肝斑なのか、普通のシミなのか、自分で決めてから受診する必要はありません。むしろ、治療を始める前に「何が重なっているのか」を整理することが大切です。
当院では、診断を受けたからといって、その日に治療を決める必要はありません。シミの種類と、治療するならどの順番がよいのかを確認して、いったん持ち帰っていただいても大丈夫です。「レーザーを受けるべきか迷っている」という段階でも、ご相談ください。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 服部浩明