「速乾のインナーを着ているのに、背中のブツブツが治りません」
「部活が終わって汗も引いたので、そのまま制服で帰りました」
部活動をしている中高生や、屋外で働く方から、この時期こうしたお話をよく聞きます。
日常生活の汗であれば、生地が処理しきれる範囲に収まることが多く、良いインナーを選ぶことが対策の中心になります。ところが大量に汗をかく場面では、どんな素材でも必ず飽和するという前提から出発しなければなりません。
インナーの選び方そのものについては夏のインナー、売り場で何を見て選べばよいのかで詳しくお話ししました。今回は、汗の量が多い方の場合に、その基準がどう変わるのかをお話しします。
目次
「乾いた」は、皮膚が元に戻ったという意味ではありません
まず、いちばん見落とされている点からお話しします。
汗の主成分である水分は、時間が経てば蒸発します。触ってサラサラになれば、多くの方は「もう大丈夫」と感じるはずです。
しかし皮膚の上に残るのは水だけではありません。汗に溶けていた塩分、皮脂、こすれてはがれた角層のかけら、そして皮膚の上で増えた菌。これらは水のように蒸発してはくれません。むしろ水分が抜けたことで濃縮され、皮膚の上に留まります。
見た目には乾いているのに、実際には菌にとっての栄養が凝縮された状態が、そのまま肌に乗っている。汗をかいた後の数時間、多くの人が見過ごしているのがこの状態です。
汗をかくこと自体が問題なのではありません。本当に重要なのは、汗をかいた後、その残りかすを皮膚の上に何時間放置するかという点です。
濃縮された塩分と皮脂は、それ自体が皮膚への刺激になります。そこを衣類がこすれば炎症が起こり、毛穴に入り込めば毛包炎になります。さらに、残った皮脂は菌の栄養になり、においのもとが作られ続けます。帰宅してシャワーを浴びるまでの数時間は、この三つが同時に進んでいる時間です。だからこそ、汗が引いた後でも、拭いて着替える意味があります。
インナー選びの基準は、こう変わります
覆っている面積、肌に触れる面の凹凸、密着しすぎないこと。この三点は大量に汗をかく場面でもそのまま当てはまります。変わるのは、そこに加わる条件のほうです。
綿は選択肢から外れます。 日常の汗なら飽和まで届かないので吸収力の高さが利点になりますが、確実に飽和する場面では、乾かない、重い、肌に張りつく、風で急激に冷える、という弱点だけが残ります。
「乾かす」より「着替える」を前提に選びます。 大量発汗では、どれほど高性能な生地でも乾燥が追いつきません。生地の性能を追いかけるより、同じインナーを二枚用意するほうがはるかに効果があります。高価な一枚より、手頃な二枚です。
肌離れのよさを最優先にします。 濡れた状態が長く続く以上、生地が肌に張りつきにくいことが快適さを左右します。表面がなめらかな薄手の生地より、メッシュや凹凸のある生地、肌側から外側へ水分を移す二層構造のものが向きます。
閉じ込められる場所を意識します。 ユニフォーム、防具、サポーター、ヘルメット、作業着の下は、汗の逃げ場がありません。運ばれた汗が蒸発できない以上、そこは常に湿った状態になります。素材では解決できないので、休憩ごとに外して風を通す、拭き取るといった対応が必要です。
シャワーがない場所での、現実的な対処法
理想を言えば、汗をかいた直後にシャワーを浴びるのがいちばんです。ただ、日本の学校には体育の後にシャワーを浴びる設備がほとんどありません。屋外の作業現場でも同様でしょう。
用意するものは、タオルと替えのインナーの二つだけです。特別な道具はいりません。
- 水道を見つけてタオルを濡らし、首まわり、脇、背中、胸の汗をやさしく拭き取る
- 乾いた替えのインナーやシャツに着替えて帰る
ここで大切なのは、汗と汚れを皮膚の上から確実に取り去ることです。そっと当てて押さえるだけでは、濃くなった汗や皮脂は取れません。汚れをタオルに移し取るつもりで、力を入れずに、けれども面を動かしながら拭いてください。
同時に、ゴシゴシとこするのは避けてください。汗でふやけた皮膚は摩擦に弱く、こすること自体が炎症や毛包炎の引き金になります。「やさしく、しかし残さない」——この二つを両立させるために、濡らしたタオルを使います。
乾いたタオルで拭かないことも要点です。乾いた布は摩擦が大きく、汗を拭き取る力も弱いため、皮膚を刺激するばかりで汚れは残ります。拭いた後に残った水分は、着替えてしまえば自然に蒸発します。
汗拭きシートで代用したくなるところですが、これはおすすめできません。拭き取れるのは表面の汗と菌だけで、皮膚の菌は数十分で元に戻ります。それ以上に、大量に汗をかいた後の皮膚はふやけてもろくなっており、アルコールやメントール、こする摩擦が炎症の引き金になります。赤みやヒリヒリする感覚が出ている皮膚には、汗拭きシートを使わないでください。
濡れたウェアの持ち帰り方も、においを左右します
汗をたくさん含んだウェアは、菌にとって絶好の培地です。ビニール袋に密閉して数時間持ち歩けば、その中で菌が増え続けます。翌日その服を開けたときのにおいは、この時間に作られたものです。
濡れたウェアは密閉せず、通気性のある袋に入れてください。帰宅したらすぐに洗い、すぐに洗えないときは干して乾かしてから洗濯かごへ入れます。
毎日大量の汗を吸わせるウェアほど、繊維への皮脂の蓄積は早く進みます。乾いている間は無臭でも汗で湿るとにおいが戻るのはこのためで、洗い方の工夫については第1回でまとめたとおりです。
起きてくる肌トラブルの種類も変わります
汗と蒸れで起こる代表的なトラブルは汗疹と汗かぶれで、これは日常生活でもスポーツでも共通しています(詳しくはそれホントに汗疹?汗かぶれ?をご覧ください)。
汗疹と汗かぶれが起きているのは、汗の通り道と皮膚表面のバリアです。一方、大量に汗をかく方で増えてくるのが、毛穴の中で起こるトラブルです。場所が違うので、治療も変わります。
細菌による毛包炎
毛穴に細菌が入り込んで炎症を起こしたものです。汗と皮脂で蒸れた毛穴、防具やユニフォームのこすれで小さな傷がついた毛穴は、細菌にとって入り込みやすい入口になります。赤く腫れて、押すと痛みを伴うことが多いのが特徴です。
マラセチア毛包炎
もうひとつ、汗をかく季節にとくに増えるのがマラセチア毛包炎です。
ニキビの原因菌がアクネ菌であるのに対し、こちらは皮膚に常在するマラセチアというカビの一種が、皮脂の多い毛穴の中で増えすぎることで起こります。見た目はニキビによく似ていますが、違いがあります。
- 大きさが2〜3ミリ程度で比較的そろっている(ニキビは大小さまざまな大きさが混在します)
- 毛穴の詰まり、いわゆる芯が見られない
- 強いかゆみを伴うことが多く、汗をかいた後や入浴後にかゆみが強まる
背中、胸、肩など、皮脂の分泌が多く汗もかきやすい部位に多発します。
重要なのは、真菌が原因のため一般的なニキビ用の抗菌薬では治らないという点です。それどころか、抗菌薬を使い続けると他の菌が減り、マラセチアだけが増えやすい環境を作ってしまうことがあります。「ニキビの薬を何週間も塗っているのに、むしろ増えている気がする」というときは、これを疑う手がかりになります。
治療には抗真菌薬の塗り薬を使います。見た目が改善しても自己判断でやめると再発しやすいため、指示された期間は続けてください。
見分けるのは、医師でも簡単ではありません
汗疹、汗かぶれ、細菌性の毛包炎、マラセチア毛包炎、そして通常のニキビ。これらはいずれも、汗をかきやすく蒸れやすい場所に赤いブツブツとして現れるため、見た目だけで区別するのは容易ではありません。
「ニキビだろう」「あせもだろう」と判断して市販薬で様子を見ているうちに、実は違う病気で、しかも合わない薬を使い続けていた、ということもよくあります。皮膚科専門医は皮疹の分布や性状を診察し、必要に応じて顕微鏡での検査を行って判断します。原因が変われば、使うべき薬もまったく変わります。
こんなときは、市販薬を重ねずに皮膚科専門医へ
- ニキビの薬を数週間使っても改善しない、むしろ増えている
- 背中や胸に、大きさのそろった赤いブツブツが多発している
- 汗をかいた後や入浴後に、強いかゆみが出る
- 毛穴の詰まり(芯)が見当たらないのに、ブツブツが広がっている
- 皮膚科専門医以外の医療機関やオンライン診療で処方された薬を使っていて、症状が改善しない、または悪化している
日常的に大量の汗をかくお子さんの場合、シーズンの早いうちに一度皮膚の状態を確認しておくと、夏の間ずっと同じ場所を繰り返し悪化させずに済むことが多くあります。
替えのインナーを一枚多く、タオルを一枚。持ち物としては地味ですが、シャワーのない環境で汗をかき続ける以上、これがいちばん確実な予防策です。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 服部浩明