「速乾タイプのインナーを着ているのに、汗を全然吸ってくれない気がします」 「やっぱり綿のほうがいいんでしょうか」
あせもや汗かぶれで受診された患者さんから、この時期こうしたご質問をいただくことがよくあります。売り場に並ぶ表示の種類が増えて、かえって選びにくくなったと感じておられる方も多いようです。
汗の季節の肌トラブルは、薬を塗ることと同じくらい、「汗をかいた後の皮膚をどんな状態に置くか」で経過が変わります。その意味で、毎日いちばん長く肌に触れているインナーは、実はもっとも身近な治療環境と言えます。
今回は、通勤や通学、買い物や家事といった日常生活の汗を想定して、店頭で迷ったときに何を手がかりにすればよいのかをお話しします。
目次
インナーに求められているのは、実は「吸うこと」ではありません
多くの方は「汗をよく吸う素材=良いインナー」と考えておられます。ただ、皮膚にとって大切なのは、吸われた後にどうなるかのほうです。
汗が快適に処理されるまでには、三つの段階があります。
- 皮膚の表面から汗が離れる
- その汗が生地の広い面へ移り、薄く広がる
- 広がった水分が空気中へ蒸発していく
この流れのどこかが止まると、どれほど「吸う」素材を着ていても、濡れた生地が肌に張りついたままになります。
その状態が続くと、角層は水を含んでふやけます。医学的には浸軟(しんなん)と呼ばれ、ふやけた皮膚は非常にもろく、歩行や自転車の動き、カバンのベルトによる摩擦で簡単に傷みます。バリア機能が落ちれば次に出た汗がしみ、かゆくなり、掻いてさらに壊れる。汗かぶれの多くはこの繰り返しの中で起こります(この連鎖についてはそれホントに汗疹?汗かぶれ?で詳しく解説しています)。
問題になるのは、汗をかいたことそのものではなく、濡れたまま張りついている時間の長さなのです。
綿は「最初だけ」優秀な素材です
綿は汗が出た瞬間の吸収力に優れています。標準的な条件で繊維が抱え込む水分の割合は、綿が約8.5%、ポリエステルが約0.4%とされ、繊維そのものの吸水力にはこれだけの差があります。
問題はその後です。綿は吸った水を繊維の内部に抱え込むため、飽和すると今度は手放すのが苦手になります。乾かない、重くなる、肌に張りつく、冷房で冷える。
ただし日常生活で出る程度の汗であれば、綿や綿混は十分に良い選択肢です。飽和するところまで行かなければ、あの吸収感の心地よさがそのまま利点になります。判断の分かれ目は、着ているものが飽和するかどうかにあります。
「吸わない」と感じる速乾インナーで、何が起きているのか
一方、薄手の吸汗速乾インナーは、汗を吸わないわけではありません。繊維の中に抱え込む代わりに、細い繊維のすき間を伝わせて生地の表面へ広げ、そこから乾かす設計です。
それでも「吸ってくれない」と感じる場面には、共通した事情があります。
- 汗の勢いが、生地の運ぶ能力を超えている——広げるより速く汗が出れば、処理しきれない分は液体のまま残ります
- 上に着ているものが蒸発を妨げている——制服、白衣、スーツ。運んだ汗の逃げ場がなければ、そこで流れは止まります。日本の夏は空気そのものが湿っているため、この段階でつまずきやすくなります
- 生地の表面がなめらかすぎる——濡れると全面が肌に貼りつきます。乾いているときの快適さと、汗をかいたときの快適さは一致しません
素材が悪いというより、処理能力を超えているのです。
売り場では、三つだけ見てください
細かい混率表を読み解く必要はありません。次の三点で、失敗はかなり減ります。
- 覆っている面積——汗を処理する能力は、生地が肌に触れている面積に比例します。細い肩ひものキャミソール型は、汗の多い脇の下や肩の外側をほとんど覆いません。半袖か、脇の下まできちんと生地のあるフレンチ袖を選んでください。フレンチ袖と書かれていても、袖ぐりが大きく開いて脇に布が届かないものは、実質的にキャミソールと変わりません
- 肌に触れる面の凹凸——手のひらを内側に入れて触ってみてください。つるつるした平らな生地より、メッシュやワッフルのように細かい凹凸のある生地のほうが、肌との接触面積が小さく、汗と空気の通り道ができます
- 密着しすぎていないか——身体に沿うことは必要ですが、締めつけるほどのフィットは熱をこもらせます。カップ付きのインナーも、胸の下が二重になって乾きにくくなることがあります
なお「接触冷感」は着た瞬間のひんやり感を示す表示で、汗を処理する能力とは別のものです。冷感が強いからといって、大量の汗をさばけるとは限りません。
においは、肌ではなく「衣類」の上で作られています
対策を考えるうえで出発点になる事実がひとつあります。出たばかりの汗は、ほとんど無臭です。
エクリン汗腺から出る汗の大半は水と塩分です。においが生まれるのは、汗に混じった皮脂やたんぱく質を菌が分解し、小さな揮発しやすい物質に変えたときです。
そして、その分解が起きる主な舞台は、皮膚の表面ではなく衣類の中です。皮膚の上の菌は、皮膚がもともと持っている防御の仕組みの影響を受けています。ところが衣類に移った菌は、その制御からはずれ、汗と皮脂を栄養にして自由に増えていきます。
運動後のTシャツを比べた研究では、ポリエステルのシャツは綿のシャツより不快で強いにおいと判定され、においのもとを作る菌が化繊側に選択的に増えていたと報告されています。合成繊維は皮脂を吸着しやすく、繊維のすき間が菌にとって居心地のよい環境になるためと考えられています。
「毎日きちんと体を洗っているのに、夕方になるとにおう」という方が多いのは、このためです。においの原因の多くは、身体ではなく、着ているものの側に残っています。
汗拭きシートでは、においは止まりません
においが気になる方の多くが手に取られるのが、いわゆる汗拭きシートです。ただ、皮膚科の立場から申し上げると、これはおすすめできません。
ひとつは、効いている時間が短いことです。拭き取れるのは、そのとき皮膚の表面にある汗と菌だけです。においのもとになる皮脂は衣類の繊維に残ったままですし、皮膚の菌も数十分で元の数に戻ります。
もうひとつは、そのころの皮膚がすでに傷んでいることです。汗で長時間濡れた皮膚はふやけてもろくなっています。そこへ、アルコールによる脱脂、メントールの清涼成分、シートで強くこする摩擦が加わります。健康な皮膚では心地よく感じられるものが、ふやけた皮膚では炎症の引き金になります。この刺激と摩擦を毎日繰り返すと、脇や首の色素沈着として残ることがあります。
すでに赤みやかゆみ、ヒリヒリする感覚が出ている皮膚には、汗拭きシートを使わないでください。
代わりにしていただきたいのは、次の順番です。
- できればぬるま湯で流す、難しければ水で濡らしたタオルで押さえるように拭く
- 乾いたタオルで水分を取る
- 湿ったインナーは、可能なら乾いたものに替える
こすらずに「押さえる」ことが要点です。制汗剤を使う場合も、汗をかいてから塗るのではなく、乾いた清潔な皮膚に、できれば汗をかく前や就寝前に使うほうが働きます。
洗っているのに、においが戻ってくるとき
一度繊維に入り込んだ皮脂は、普通の洗濯では落ちきらないことがあります。乾いている間は無臭でも、汗で湿ると菌が再び働き出し、においが戻ります。「洗ったばかりのシャツなのに、着てしばらくするとにおう」というのは、この状態です。
- 湯温を40℃前後にする(皮脂は冷水では落ちにくい性質があります)
- 週に一度、酸素系漂白剤でつけおきをする
- 洗濯機に詰め込みすぎない
- 洗い上がったものを、濡れたまま長時間放置しない
吸汗速乾の生地は、繊維表面の親水加工と細い繊維のすき間を使って水を広げています。柔軟剤の成分や落としきれなかった皮脂がその表面を覆うと、水を広げる働きが落ちます。「以前より汗をはじく感じがする」というときは、柔軟剤を使わずに洗い、すすぎを十分にすると戻ることがありますので、買い替える前に一度試してみてください。
なお、においが片側だけ強い、思春期以降に急に気になり始めた、衣類の脇の部分が黄色く染まる、といった場合は、アポクリン汗腺が関係する腋臭症の可能性があります。洗い方や素材の工夫では解決しにくい一方、塗り薬から手術まで治療の選択肢が複数あります。ひとりで対策を重ねる前に、一度ご相談ください。
ここまでは、日常生活で出る程度の汗を前提にしたお話です。部活動やスポーツ、屋外の仕事のように着ているものが必ず飽和するほど汗をかく場合は、インナーの選び方もその後のケアも前提から変わります。日常の汗対策の基本は汗対策のセルフケアでもまとめています。
インナーを変えても治らないかゆみは、皮膚科専門医にご相談ください
インナーや洗濯を見直しても赤みやかゆみが続くときは、すでに湿疹として炎症が動き出している可能性があります。
蒸れやすい場所やこすれる場所にできる発疹は、汗疹、汗かぶれ、とびひ、カンジダなどの真菌感染、接触皮膚炎と、見た目が重なる部分が多く、診察でも慎重な判断が必要です。しかも複数の状態が同時に存在していることも珍しくありません。皮疹の分布や性状を診て、必要に応じて検査を行い、今どの状態にあるのかを見極める必要があります。
市販のあせも用の薬は患部を乾かす方向で作られており、汗疹には理にかなっていますが、すでに湿疹化した汗かぶれに使うと刺激になり、かえって悪化することがあります。
次のようなときは、市販薬を重ねずに皮膚科専門医を受診してください。
- 薬を塗っているのに赤みや腫れが強くなってきた
- 汗をかくとしみる、ヒリヒリする感覚が続いている
- ジュクジュクした分泌物が出て、周囲に広がってきた
- 黄色いかさぶたができてきた
- 離れた場所にも同じような発疹が出てきた
- 皮膚科専門医以外の医療機関やオンライン診療で処方された薬を使っていて、症状が改善しない、または悪化している
売り場でインナーを選ぶ数分と、洗濯のときのひと工夫。それだけで、この夏の肌の状態はずいぶん変わります。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 服部浩明