「このシミ、レーザーで取れますか?」
診察室でよく聞かれる質問です。ただ、皮膚科医が最初に考えるのは、どのレーザーを使うかではありません。その茶色いものが、本当にレーザーを当ててよいものなのか。まず、そこを確認します。
顔にできる茶色いものは、見た目が似ていても中身は別物です。レーザーがよく効くものもあれば、刺激によって濃くなるものもあります。なかには、色だけを消してしまうと診断が遅れる病変もあります。
つまり、シミ治療で最初に必要なのは「機械選び」ではなく「診断」です。今回は、レーザーを当てる前に皮膚科医が何を見分けているのかをお話しします。
目次
同じ茶色でも、中身はまったく違います
頬の斑点も、左右に広がるもやもやも、盛り上がった黒っぽいものも、日常ではまとめて「シミ」と呼ばれます。しかし皮膚の中で起きていることは違います。浅いところに色素がたまっているもの。深いところに色素を作る細胞が居座っているもの。皮膚の細胞そのものが増えて盛り上がったもの。そして、細胞の形が変わってしまっているもの。同じ茶色に見えて、原因はこれだけ違います。茶色いからといって、すべて色素の病気とは限りません。
病名を覚えていただく必要はありません。レーザーの側から見ると3つに分かれる、ということだけ押さえてください。
- レーザーで取りやすいシミ
- レーザーで悪化することがあるシミ
- レーザーを当てる前に、病気を除外したいシミ
順にお話しします。
レーザーで取りやすいシミには共通点があります
レーザーは、色素に吸収されて瞬間的な熱に変わり、色素の粒を砕くことで働きます。ですから、できあがった色素が一か所にまとまっているシミが得意です。言ってみれば、色素の「在庫」があるシミです。
代表は老人性色素斑とそばかすです。境界のはっきりした茶色い斑には、当院ではQスイッチルビーレーザーを使います。多くは1回の照射で色素がかさぶたになって剥がれます。
もうひとつ、後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)という、頬骨のあたりに青みがかった灰色の点が左右対称に出るものも、レーザーの適応です。色素を作る細胞が皮膚の深いところにあるため、塗り薬や光治療では届かず、間隔をあけて複数回の照射が必要です。
ただし、取りやすいシミでも、照射のあとには炎症による色素沈着がよく起こります。国内の報告では、Qスイッチルビーレーザーの照射から1か月の時点で、半数以上の部位にいったん色が戻っていました。時間とともに薄くなりますが、内服薬で防げるという結果は出ておらず、頼りになるのは遮光です。「1回で取れる」と「1回で終わる」は同じではありません。
肝斑には当てられません。工場を刺激するからです
肝斑は、両頬に左右対称に、輪郭のぼんやりした茶色が面のように広がります。30代から50代の女性に多く、こすったり日に当たったりするたびに悪化します。
老人性色素斑が色素の「在庫」の問題だとすれば、肝斑は色素を作る「工場」の問題です。色素細胞の数が増えているのではなく、細胞が刺激に過敏になって、色素を作りすぎています。在庫を壊すために作られたレーザーを、過敏になった工場に当てると、その刺激でさらに色素が作られます。通常の出力で肝斑にレーザーを当てると濃くなるのは、そのためです。
「弱く当てるレーザートーニングなら大丈夫」と聞いたことがあるかもしれません。日本の美容医療の診療指針では、遮光や塗り薬で十分な効果が得られない場合に限って、レーザーや光治療を併用することが弱く提案されているにとどまります。低出力でも回数を重ねると、まだらに白く抜けることがあり、安全に続けられる上限はわかっていません。新しいピコ秒レーザーでも、肝斑では炎症後の色素沈着が報告されています。
肝斑の治療の土台は、遮光と、こすらないこと、そして色素の生成を抑える塗り薬や内服薬です。内服のトラネキサム酸は、血栓症の既往がある方や、エストロゲンを含む経口避妊薬を使っている方には使いません。市販薬にも肝斑向けのものがありますが、連続して飲めるのは2か月までと決められています。当院では、こうした基本の治療を先に行ったうえで、それでも足りない場合にレーザートーニングを組み合わせています。
やっかいなのは、肝斑の上に老人性色素斑やADMが重なっていることが珍しくない点です。この場合、先に肝斑を落ち着かせてから、重なっているシミを照射する順序になります。順序を逆にすると、取ったつもりのシミの周りが濃くなります。
色を消してはいけないシミがあります
日光角化症と悪性黒子は、見た目が老人性色素斑とよく似ています。日光角化症は皮膚がんの手前の状態、悪性黒子は表皮の中にとどまっているメラノーマ(皮膚がんの一種)です。違いは、色ではなく細胞にあります。日光角化症は表面がざらつき、薄いかさぶたのような鱗屑がつきます。悪性黒子は、ゆっくりと広がり、輪郭が左右非対称で、茶色と黒と灰色が混ざります。ただし初期には、どちらも平らで色が均一なことがあります。
これらに色素を狙うレーザーを当てると、色だけが薄くなり、病変そのものは残ります。色は病変の看板のようなもので、看板だけ外すと中身が見えなくなります。レーザー照射のあとにメラノーマと診断された例を集めた報告では、ほとんどの方が照射の前に組織の検査を受けていませんでした。レーザーががんを作ったのではなく、がんを見えなくして診断を遅らせたのです。シミを消すことと、病変を治すことは同じではありません。
日光角化症には、液体窒素で凍らせる治療や、顔と頭に使える塗り薬(承認薬)があり、皮膚がんが疑われる場合は切除します。悪性黒子は切除が基本です。どちらも、レーザーで色を消す治療の対象ではありません。
盛り上がっているなら、色の問題ではありません
脂漏性角化症は、表皮の細胞が増えてできた良性のできものです。貼りついたような盛り上がりがあり、年齢とともに数が増えます。色素を狙うレーザーで色だけを薄くしても、できものは残ります。
薄いものなら液体窒素、厚みのあるものは炭酸ガスレーザーで削り取ります。同じ「レーザー」でも、色素を砕く機械と組織を削る機械は別物です。ただし、ごく初期のものは平らなので、「盛り上がっていないからシミ」とは言い切れません。
皮膚科医は、シミの「色」だけを見ていません
「自分のシミがどれなのか、見ただけではわからない」と感じられたと思います。それで正しいです。当院でも、肉眼だけで判断しているわけではありません。
シミの相談では、まず赤み(血管や炎症)を写す光、シミなどの茶色(色素)を写す光、自然光の3種類で、正面と左右の3方向から顔の画像を撮影します。色の濃さだけでなく、広がり方や左右差、肉眼では見えにくい色素の分布まで確認し、治療前の状態を記録します。
そのうえで、より詳しく確かめる必要がある病変には、ダーモスコピーという拡大装置を使います。色素の並び方、毛穴の周りの模様、灰色の点の有無、血管の走り方を観察すると、老人性色素斑の指紋のような模様、ADMの青灰色の点、日光角化症の赤い網目と角栓、悪性黒子の毛穴を取り囲む非対称な色素といった手がかりが見えてきます。
画像は、最初の診断だけに使うものではありません。再診時のカウンセリングや、ノーリスを3回照射したあとの無料カウンセリングでも、基本的には同じように撮影し、治療前の画像と比べながら経過を確認しています。「薄くなった気がする」という印象だけでは、変化を正確に追えません。治療前後の画像を比べることも、治療方針を決めるうえで大切です。
これに、触ったときの厚みやざらつき、左右対称かどうか、いつからあるか、夏と冬で変わるか、という問診を重ねます。そばかすは幼いころから、老人性色素斑は中年以降から。肝斑は夏に濃くなりますが、ADMは季節で変わりません。それでも判断がつかない病変は、照射する前に組織を採って調べます。
次のような場合は、レーザーの相談の前に診断を優先します。
- 数か月のうちに大きくなった、形や色が変わってきた
- 表面がざらつく、かさぶたがつく、出血する
- 以前に他院でレーザーを受けたあと、同じ場所にまた色が出てきた
- 皮膚科専門医以外やオンライン診療で処方された薬で症状が悪化している場合
レーザーを選ぶ前に、まず診断を
シミ治療を考えている方は、最初から「どのレーザーを受けるか」を決めて来院する必要はありません。まず、その茶色いものが何なのかを確認する。そこから治療法を決めれば十分です。レーザー治療は、機械選びより診断が先です。
秋以降にレーザー治療を考えている方は、治療を始める前に、一度診断だけ受けておくことをおすすめします。治療に向く時期については、別の記事にまとめています。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 服部浩明